「BLはファンタジーだから」でいいのか。『おっさんずラブ』から見る実写BLの節目──連載:松岡宗嗣の時事コラム
今年1月から放送されたドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』に、ライターの松岡宗嗣は違和感を覚えたという。なぜか? 【写真の記事を読む】世界各国で進む同性婚制定
BLドラマ/映画をめぐる潮流、その一つの節目として『おっさんずラブ』は役割を終えたのかもしれない。 2018年のシーズン1放送から約6年。『おっさんずラブ』が人気を博して以降、BLドラマや映画は増え、男性同士の恋愛を描く作品が一般にも広く親しまれるようになった。 しかし、ゲイであることをカミングアウトして出演する俳優はほとんどおらず、一向に同性婚の法制化、婚姻の平等も実現しない。映像で描かれる世界と、現実社会の不均衡は広がっているように感じる。 「BLはファンタジーだから」「あくまでエンタメだから」という声が聞こえてくるが、はたしてそれでいいのだろうか。
2018年当時の画期性
今年1~3月にかけて、ドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日)が放送された。2018年のシーズン1がブーム的な人気を得て、劇場版やシーズン2へと続いた本シリーズ。それまでもBLドラマや映画は多数制作されてきたが、近年BL作品がここまでメインストリーム化したのは、『おっさんずラブ』がきっかけと言えるだろう。 2024年のリターンズについて、SNSの反応はファン層を中心に好意的なものも多かった一方で、同性カップルをめぐる制度の不平等を温存するような内容に批判が集まった。なかにはおっさんずラブを「卒業」するといった趣旨の投稿もあった。 2018年に放映されたシーズン1も、職場での過激なスキンシップや盗撮など、異性間であれば明らかに問題視されるようなセクハラ描写は批判を受けていた。男女雇用機会均等法のセクハラ防止指針には、職場のセクハラは同性に対するものも含まれることが明記されている。 一方で、2018年当時の社会状況において、著名な俳優が演じる男性同士の恋愛が、周囲から差別や偏見のまなざしを受けず、ポジティブに描かれる姿は画期的だった。筆者の人間関係でも、何人もの人から『おっさんずラブ』にハマっていることを伝えられ、影響の大きさを実感した。 同性愛を描いたコンテンツが広く親しまれている事実は、同性を愛することは“秘めたものでなければならない”と、どこか内面化してしまっていた自分自身のスティグマをときほぐしてくれたようにも感じた。