坂本龍馬に憧れる青年の諦めない雑草魂 海外で起業目指し、18歳で渡欧も失敗の連続…次は新天地台湾へ
春、旅立ちの季節。人とは違う道を模索し続ける青年がいる。福岡市出身の松本龍之介さん(21)。「海外で起業したい」との一心で3年前、18歳でスウェーデンに渡った。失敗の連続で「雑草を食べて」飢えをしのぐ生活。それでも諦めない彼は、次の新天地を求めて台湾に向かう。 講演会で質問に答える松本龍之介さん 幼い頃から坂本龍馬の「型にはまらない自由な人生」に憧れた。龍馬が世界を股にかけた商売を夢見ていたことを知り、福岡大大濠高校に入学してからはビジネス書を読みあさった。 意を決したのは、高校卒業後の2021年4月。お年玉などをためた42万円を手に渡欧した。ポーランドに1カ月滞在した後、起業が容易な「スタートアップ大国」といわれるスウェーデンへ。ワーキングホリデー制度を使い、ストックホルムで1年間過ごした。 何のつてもない。まずはフェイスブックの日本人コミュニティーで自己紹介し、自分に興味を持ってくれる人とつながるところから始めた。そのうちに、自分のようなスウェーデン初心者の日本人向けに、現地を知る手伝いをすればいいのでは、と思いついた。 現地在住者として、質問に無料で答えるサイトを立ち上げた。閲覧数が伸びれば広告収入が得られるが、質問は2カ月で2通しか来なかった。 次に、コンピューターのプログラマー不足を知り、現地企業と日本のプログラマーをマッチングするホームページを作った。しかし、問い合わせは来ない。飛び込みで企業を回ったものの、門前払いだった。 日本のアニメ人気にあやかり、日本製フィギュアを仕入れて路上販売したこともある。これも全く売れず、川のほとりで泣いていたらホームレスの男性から慰められた。 □ □ ある日、ストックホルムのプロサッカーチームと契約したという男性から「副業を探している」と連絡があった。現地には、日本人の子どもに国語や算数、数学を教える「補習学校」がある。そこでサッカースクールを思いつく。 サッカーを通じて友達をつくり、日本語も話せる。補習学校に通う小中学生にチラシを配ると100人近くが集まった。週1回で月額5000円。無料の公営グラウンドを借り、ボールは各自持参にして経費を抑え、収益を分け合った。 その後は日本から訪れる書道家、茶道家、日本食の料理家、和服の着付け師などに声をかけ、教室を開いた。一文無しになる寸前で、何とか宿泊費ぐらいは払えるようになった。 滞在先は、家賃1カ月5万円のドミトリー。1部屋にベッドが12台の格安宿泊施設で、共同トイレやシャワーは汚れ放題。自ら掃除した。生活費を抑えるため、食事はオートミールと水。スマートフォンのアプリで「毒がない」道端の雑草を探してはゆでて食べた。気づけば15キロ痩せていた。 1年が過ぎ、ビザが切れるため帰国。飛行機代を支払うと所持金は2万円だった。それから半年、東京で働いた。楽な故郷に戻らず、自力で踏ん張りたかった。浅草で安宿に住み、朝は土木作業、夜はホテルの配膳係、深夜は警備員。週6日働き、70万円ためた。 次はフランスへ。パリで起業の種を探した。スウェーデンでの極貧生活経験を生かし、日本食レストランでアルバイトした。飲食店などの人手不足が深刻だと聞き、働きたい日本人とのマッチングサイトを運営。1件3万円の成果報酬で、十数件が成立した。 □ □ 1年過ごしたフランスのビザも切れ、英国やイタリアを回って一時帰国。福岡市天神のアクロス福岡で4月7日、「21歳駆け出し起業家の海外起業STORY&参加者との質疑応答講演会」を開いた。知人を通じて急きょLINEで告知したにもかかわらず、約60人が集まった。 将来、起業したいという中高生の参加も多く、次々に質問の手が挙がった。「日本と海外の若者の違いは」と聞かれ、こう語った。 「スウェーデンではサイドビジネスする学生も多いし、何事にも積極的。日本の若者は真面目だけど仲間を集めがちで、そこに行動の遅さが出る」 そして「なぜ挫折しないのか」と問われると、きっぱり答えた。 「失敗ばかりだけど、自分で行動して経験することが大切。経験値を積んで、世の中を変えるような企業を日本から生み出したい」 欧州で多くの失敗と小さな成功を学んだ松本さん。次は「アジアを知りたい」と言う。目的地は台北。今度は一体どんな日々が待っているのだろうか。 (加茂川雅仁)