一般市民が「巨大IT企業」を絶えず監視していないとヤバい理由
内田 アメリカは基本的にビジネス優先でデジタル化をどんどん進めて、個別の問題が出てきたら、後追いで法規制を考えるという進め方なのですが、これが全然追いつけていない(笑)。 一方、EUを中心とした欧州は、巨大IT企業に対する法的な規制や個人情報保護のための制度作りに積極的で、EU一般データ保護規則(GDPR)やデジタル・サービス法(DSA)などを整備しています。これには人権の保護だけでなく、アメリカや中国に集中する巨大IT企業を牽制する意図もあると思います。 ――日本の現状は? 内田 日本はどちらかというとアメリカ寄りでしたが、近年はEUの動きも参考にしながら、総務省やデジタル庁、個人情報保護委員会、公正取引委員会などがルール作りに取り組んでいます。ただ、有識者会議の結論が玉虫色になるケースが多いのが残念ですね。 その背景には、アメリカのビッグテックによる圧力があるのかもしれませんし、日本社会ではデジタル経済の不公正に関する問題意識が広く共有されておらず、市民からの抗議の声や突き上げが少ない......ということもあるのかもしれない。 だからこそ、本書を通じてデジタル経済の負の側面と、それと闘う市民たちの存在に気づいてほしいと思います。 ●内田聖子(うちだ・しょうこ)NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務などを経て2001年より同センター事務局スタッフとなる。自由貿易協定やデジタル政策のウオッチ、政府や国際機関への提言活動などを行なう。共著に『コロナ危機と未来の選択――パンデミック・格差・気候危機への市民社会の提言』(コモンズ、2021年)、編著に『日本の水道をどうする!?――民営化か公共の再生か』(同、2019年) ■『デジタル・デモクラシー ビッグ・テックを包囲するグローバル市民社会』地平社 2200円(税込)デジタル技術を活用したさまざまなサービスや、急激な進化を続けるAIの存在が私たちの社会を大きく変える中、今や国家を超えるほどの影響力を持ち始めているGAFAなどのビッグテック。最新技術を活用した権力による監視と差別がプライバシーや人権を脅かし、膨大な個人情報の収集とその活用が人々を搾取する「デジタル経済」の実態と、テクノロジーに公正と倫理を求めて、世界中で湧き起こる抗議の声を紹介する一冊 取材・文/川喜田 研 撮影/渡辺凌介