『マル秘の密子さん』松雪泰子が夏役を演じる意義 密子の姉・鞠子の死の真相が明らかに
「密子さん、社長にしてくれてありがとう」 その言葉とは裏腹に、夏(松雪泰子)が密子(福原遥)に向ける視線は冷ややかだった。 【写真】遥人(上杉柊平)と話す密子(福原遥) ついに最終章に突入した『マル秘の密子さん』(日本テレビ系)。密子は姉・鞠子(泉里香)の死の真相を探るべく、トータルコーディネーターとして夏をサポートし、平凡なシングルマザーから大企業の社長へと生まれ変わらせた。 夏たち家族は会長の五十鈴(小柳ルミ子)から九条家の屋敷を与えられ、社内でも好待遇を受けるように。一方、次期社長の最有力候補だった遥人(上杉柊平)は家からも役員室からも追い出され、立場は一気に逆転した。しかし、変わったのは“立場”だけではない。 第8話では、半年前に起きた火事について新事実が明らかとなる。これまで密子はリゾート計画を進めていた遥人が議員の小宮山(大河内浩)と共謀し、地上げ目的で起こした火事だと思っていた。だが、むしろ遥人は小宮山から計画を持ちかけられ、放火を未然に防ごうとしていたのだ。 それでも火事は起き、鞠子の死に責任を感じていた遥人は小宮山が雇った男たちを問い詰め、袋だたきにあってしまう。怪我の手当をしようとした時、肩の古傷に気づく密子。おそらく、建設現場で崩れてくる鉄柱から密子をかばった時に負ったものだろう。 密子のアトリエから盗み出された鞠子の日記についても男たちを問い詰めていた遥人。相変わらず密子への態度はふてぶてしいが、「君にとって大事な物なんだろ」という言葉には隠しきれない優しさが滲む。次期社長としてのプレッシャーが彼を冷酷にしていただけで、本当は謙一(神保悟志)譲りの思いやりのある人間なのだろう。 一方、夏は社長になった途端、多忙を理由に火災事故の調査を進めようとせず、密子のことも会社から遠ざけようとする。立場が人を変えるというが、社長になった今、夏にとって密子はもう不要な存在となってしまったのか。 そんな中、謙一が修理を依頼していた火災現場の監視カメラのデータが届く。小宮山が雇った男たちは火事への関与を否定しており、地上げが目的でないとしたら、誰かが謙一の命を狙って放火を起こした可能性が高い。密子はデータを確認しようとするが、中身を確認した夏が「何も映ってなかった」と言って、データが入っていたSDカードを捨ててしまっていた。 すぐに社内のゴミ袋を漁り、SDカードを見つけ出した密子。そこに映っていたのは、燃え盛る火の中、助けを求める鞠子に背を向けて、謙一だけを救い出す夏の姿だった。そんな中、密子の頭によぎるのは謙一を殺害した罪で逮捕された坂東(黒羽麻璃央)の言葉。 「大事なのは、あの火災事故で、一番得をしたのは誰なのか?ということです」 冷静になって考えてみれば、一番得をしたのは夏だ。謙一を助けたことで智(清水尋也)と彩(吉柳咲良)が九条開発で働けることになり、夏は全株を譲り受けて社長の座にまで上り詰めた。それに夏はあの火災現場が九条開発の建設予定地であることを知っていたという。だが、ここまで条件が揃っていても、密子は夏が放火の犯人とは思えなかったはずだ。なぜなら、夏は自分が損をしてでも他人のために行動する人間だから。それに、密子の過去を知った時、夏は「私があなたの分までちゃんと痛がるから、もう苦しまなくていい」と抱きしめてくれた。そんな夏は密子にとって、姉のような存在だった。 しかし、密子が問い詰めると夏の態度は一変。「今後一切、九条開発に関わらないでください」とクビを宣告する。親しみを込めて、“密子さん”と呼んでいた夏だが、呼び名は“本宮さん”に変わっていた。当初は自信のなさが見た目にも表れていた夏。密子と出会ってからは服装だけではなく中身もアップデートされ、社長として相応しいカリスマ性を携えている。だが、代わりに以前のような柔らかな印象は失われ、冷酷さも感じさせる。印象が二転三転し、あらためて松雪泰子がこの役にキャスティングされた意義を感じさせる一方で、夏が密子の敵として立ちはだかるというのはあまりに悲しい展開だ。本当に夏は放火を起こした犯人なのか。最終回を前に衝撃のどんでん返しが起きた本作から最後の一瞬まで目が離せない。
苫とり子