タレントは“晒し”にどう立ち向かう? FIREBUG佐藤詳悟とYU-M エンターテインメント山田昌治の“SNS時代のマネジメント”
お笑い芸人や俳優、モデル、アーティスト、経営者、クリエーターなど「おもしろい人=タレント」の才能を拡張させる“タレントエンパワーメントパートナー“FIREBUGの代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟による連載『エンタメトップランナーの楽屋』。 【写真】FIREBUG佐藤詳悟とYU-M エンターテインメント山田昌治の撮り下ろしカット 第12回は、YU-M エンターテインメント代表の山田昌治をゲストに迎える。アップフロントグループで、モーニング娘。やスマイレージ(現:アンジュルム)、アップアップガールズ(仮)などのマネージャーを務め、2016年に独立。現在、同事務所は辻希美や和田彩花、でか美ちゃんなども所属し、女性アイドル・タレントを多く擁する事務所となっている。 芸能活動のゴールとしてテレビを目指した時代も終わりが見え始め、「ヒット」や「スター」の形も大きく変化してきた。芸能事務所や芸能界自体のあり方が問われる昨今、マネージャーの存在やマネジメントの手法はどのように変化していくのか。 タレントのマネジメント業を最前線で模索し続けてきた二人が、現代のヒットの作り方やこれからのマネジメントの価値について語った。 ・山田昌治が独立するまでの道のり 山田昌治(以下、山田):佐藤さんは、ロンドンブーツ1号2号さんのマネージャーというイメージが強いんですよ。最初にお会いしたのがおそらく『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)の現場とかで。僕がアップフロントでテレビ局とかの営業の部署にいて、里田まいや矢口真里を担当していた頃です。 佐藤詳悟(以下、佐藤):そうですよね。もう、ずいぶん前だ。山田さんの芸能事務所キャリアってどこから始まったんですか? アップフロントが最初なんでしたっけ? 山田:そうですね。最初はアップフロントに入りました。そもそも、母も芸能事務所(マナセプロダクション)をやってるんですよ。今年75周年で、母は2代目です。 佐藤:そうなんですか。最初からそこに入ろうとは思わなかったんですか? 山田:芸能の仕事はしたいと思ったんですけど、親の会社に入っちゃったら、なんていうかさすがに逃げ出せなくなっちゃうじゃないですか。(笑)だからまずは縁もゆかりもないところでやってみようと思ったんです。 佐藤:山田さんが入社した当時のアップフロントって、どういう時期ですか? 山田:モーニング娘。が既にめちゃくちゃ売れていて、4期(辻希美、加護亜依、石川梨華、吉澤ひとみ)までいましたね。中澤裕子が卒業するくらいの頃にマネジメントの部署に異動して、そこからモーニング娘。や後藤真希、松浦亜弥などを担当していました。 佐藤:そこから一旦テレビ局とかの営業の部署へ移ったと。 山田:そうです。そのあとまたマネジメントの部署に戻って、スマイレージを担当して、それからアップアップガールズ(仮)を作って……みたいな感じですね。 同時にその頃、母が高齢になってきてこともあり、仕事を手伝うことも視野に入ってきたのでサラリーマンを続けるのではなく、独立することを決めました。それが2016年のことです。 佐藤:じゃあ独立は、ご家族のことがきっかけではあったと。 山田:そうですね。なのでその理由も含めてオーナーに相談したら、アップアップガールズ(仮)や吉川友を連れて自分で会社を始めたら良いって言ってくれたんです。だから、アップフロントには頭が上がらないんですよ。 佐藤:御社では普段、マネジメントにおいてどのようなことを意識していますか? 山田:うちは特に、所属しているのが10代から30代の女性なので、彼女たちにしっかり寄り添えるマネジメントであるかどうかを重視しています。それこそ10代の子たちはまだ世の中の常識をあまり知らないことが多いので、基本的なことを教えるところから始めてます。 あとは、すごく求心力のあるプロデュースができる子だとしても、周りがついていけなくなることがあるので、そういうときにフォローしたり、プロデュース力が伸びそうな子を育てたりと、いろんな役割を果たすマネジメントがあります。 佐藤:女性が多いという点で、特に大事にしていることはありますか? 山田:事務所としてはたとえば、10代の子たちに対して生理(月経)研修を行ったりしています。若い時期って自分の体に関することにあんまり向き合わない事も多くいのですが、健康状態はパフォーマンスの質やメンタル面にすごく影響してしまう。なので女性の健康状態については重視してあげなきゃいけない。 それに一番大事なのは、どれだけモチベーション高く活動を続けられるか。そのためには生理(月経)の話をしたほうがいいときもあるということです。とは言え、向き合い方はタレントによって異なるので、一概には言えませんが。 佐藤:なんでも出してくれるドラえもんみたいな存在ですね。 山田:そうですね。だから僕のやり方だと、たくさんのタレントをマネジメントするのって難しいんですよ。時代に合っているのか、逆走していないかとかはわからないですけど。 それでもみんなの顔がちゃんと見えるくらいの距離感で仕事をできているほうがいいなと思っています。人によっては「なにを甘っちょろいことを言ってるんだ」なんて思うかもしれないけど、これが自分のなかで一番しっくりくる状態なので。 ・SNS時代にアイドルがヒットするには「圧倒的な打席数」が必要 佐藤:テレビの影響力は、以前よりもなくなってきたと感じますか? 山田:いや、むしろまた盛り返しているのではと思います。少し前まではいまほどSNSで波及しなかったから、テレビに出てもそれだけになる事が多かった。でもいまは、SNSが日常になった事でテレビに良い出方をすれば二次波及してSNSでもざわつくから、相互作用でマラソンみたいにずっと走り続けられる。 佐藤:ああ、なるほど! たしかにそれはありますね。 山田:さすがに、音楽番組に出てCDが売れるみたいな時代はとっくに終わってしまいましたけど、いま音楽番組に出たらそこからSNSのざわつきは生まれると思うんです。 佐藤:SNSが大きくなってきたおかげで、ざわつきも大きくなっていると。 山田:そう。だからそのざわつきを利用して、また違うなにかを作れるみたいなことがあったりとかはあるのかなと思います。 佐藤:そういう意味では、いま事務所に所属している人たちの王道ルートというか、こうやって仕事をやっていけばいいみたいな方程式は持ってるんですか? 山田:たとえばアイドルグループであれば、なんだかんだ歌って踊ってライブをすることが大事と捉えていて。楽曲やパフォーマンスなどでタレントとしての地肩を鍛えていないと、もしなにかのきっかけで当たったとしても、走れないんですよ。仮にきっかけを掴んだとしても、波に乗り続けることが難しくなってしまう。 佐藤:なにかのきっかけで当たることに関して、かつてはテレビがゴールとして存在していたから、ある程度「ヒットの法則」みたいなものが存在していたと思うんですけど、いまはプラットフォームも多様化していて、難しいところですよね。 山田:打席数を圧倒的に増やす必要はあると思います。テレビはライバルの数がある程度限られていたけど、いまはおっしゃる通りプラットフォームやヒットのきっかけもいろいろあって、プロも素人も関係のない世界ですし。だからこそ、とにかくまずは打席に立つことが大事かなと。マネジメントとしてはその背中を押すことが、ヒット率を高くする方法じゃないかと思います。 佐藤:いまの新人たちって、数曲当たって、コアファンが形成されないままジェットコースターのように翌年にはもう誰も知らない、みたいなことがすごく多いと思うんです。一発当たって消費されて「あの曲知ってるけど、歌ってるのは誰だっけ?」みたいな。そういうケースは、これからも増えていく気がしています。 山田:そうやってただ消費されそうになったときに、普段から地肩を鍛えていれば、ヒットを続ける確率も変わると思います。ひとつ当たったときに近いものをすぐ投げられる能力があれば、走り続けられますし。 佐藤:それは先ほど話されていた「モチベーション高く活動を続ける」ことにマネジメントとしてコミットする話につながりますよね。ただ、よく言われるのは、周りが支えすぎるとイエスマンだらけになって、裸の王様になってしまうということ。それは寄り添うのとは似ているようでまったくの別物だと思うのですが、どう考えていますか? 山田:難しいところだと思います。若く経験の少ない現場マネージャーだと、どうしても寄り添う=イエスマンになりがちだし、そうならないように指導したところで、経験が少ない、知識が足りないとまだ難しいこともあるし。だから、クリエイティブの面で同意できることはどんどん背中を押しつつ、そこについて来られない人もいることを教えてあげるとか、そういうことかなと。 佐藤:それが先ほどの、マネジメントの役割の違いの話ですよね。 山田:そうですね。たとえばアイドルグループだと、どんなにリーダーの子が頑張っていても、周りの子がついて来られなかったら、絶対良いグループにはならないんですよ。それはリーダーだけじゃなくて、プロデュースもそう。そこが空回りするとうまくいかない。そうならないようにするのも、マネジメントの役割かもしれません。 佐藤:昔は多少マネージャーの色ってあったと思うんですけど、いまはタレント自身が発信できてしまいますもんね。 山田:だから究極の話、いままでのマネジメントは、長い目で見たら絶対になくなるじゃないですか。スケジュールを管理して、窓口をやって……みたいなことをするだけの事務所は、大手以外はなくなっていくと思います。だからこそ、小さな事務所は新しいマネジメントのあり方を考えていかなきゃならないと痛切に感じますね。 ・有名税が高すぎる時代とどう向き合う? 佐藤:最近のSNSは本当にいろんなことが起こりやすいじゃないですか。なにか対策というか、どのように向き合っていくことを考えていますか? 山田:たとえばタレントに対して誰かが何かしたことが罪になるなら対応できますけど、一般的には大したことじゃないとしてもタレントだから問題になるようなこともあるじゃないですか。 いまの時代は有名税が高くなりすぎて、ちょっとしたことをSNSに書かれるだけでタレントは一気にイメージダウンしてしまう。だから教育し続けるしかないんですよね。LINEは全部晒される覚悟でやり取りをしようとか、車が無い道でも赤信号で渡るなみたいなことを。 佐藤:極端じゃなく、そうなりますよね。 山田:でもマニュアル化したところで全員が完璧に理解するのは難しいから、日頃からひたすら一般常識を教えるしかない。そして万が一のことがあったらすぐ報告してもらう。それしかないんですよね。 佐藤:週刊誌が売れたり、ネットニュースがたくさん読まれたりするわけじゃないですか。週刊誌の売り上げやネットニュースの広告収入とかを、その記事に出てる人に分配してほしいと思うんですよ。 山田:たしかにそうですよね。犯罪とか社会的事件は別として。 佐藤:そうじゃなかったらもう、テレビに出るようなことと一緒だから。それこそタレントを支えるという意味では、マネジメント側で一致団結して何かできたらいいのになと思うんですよ。報道の自由と言われればそうだけど、別に犯罪をしていないなら、それをわざわざ言うのってなんなんだろうなと思っちゃいます。 山田:とはいえ、大手メディアがやらなくなったとしても、いまの時代は本当に誰でも晒せちゃうじゃないですか。内容によっては、発信源が大手メディアじゃなくてもパブリックイメージが崩壊して終わってしまう。そんなことはこれからいくらでもあると思います。 佐藤:そういうことへの対応って誰か真剣に考えているんですかね? 山田:いや、考えてはいるけれど答えが見つからないと思います。 佐藤:まあまあ重要ですよね? 山田:めちゃくちゃ重要だと思います。それに対応していかないと、誰も活動していけないと思います。タレントによっては「なにを言われてもいい」とか「怖いものなんかない」とか言う人もいますけど、なにをきっかけに終わるかわからないじゃないですか。本当に怖い時代だと思いますよ。 佐藤:マネジメント的に考えてもそうですよね。 山田:だからそういう意味でいうと、タレントに対して啓蒙していかなきゃいけないし、守れるのはマネジメントしかないところもあると思うので。タレント本人だと、客観的になりにくいですしね。 佐藤:リスク管理とか相当重要になってきますよね。それこそタレント個人が担うには難しい部分だと思います。 ・「芸能界がようやく変わる時期が見えてきた」 佐藤:事務所をやっていて、なにか課題とか展望はありますか? 海外進出を視野に入れているのかとか。 山田:海外でなにかやりたいとは、めちゃくちゃ思ってますよ。でもいまは「タレントにどう寄り添うか」という課題があるから、具体的にはまだなにも進めてはいないですね。うちにいま所属している子たちは、どちらかといえば国内志向というのもありますし。 佐藤:どのくらいから変わってくるんでしょうね? いま生まれたくらいの子たちくらいから、最初から海外を目指すようなこともあるかもしれないし。 山田:これまでの子たちは、ハロプロや坂道、ジャニーズを見て育っているから、そこを目指すでしょうけど、いまは韓国で生まれたエンターテインメントも多いし、そういう意味では国境がなくなってきているから、これからの子はそうなる可能性がありますね。 佐藤:芸能界におけるイチローや大谷翔平みたいな人が出てきたら、一気に変わるのかもしれないですね。まだ、そこまでいっている人はいないですもんね。 山田:スポーツは言語の相互理解があまり必要ないことが大きいと思います。言葉がわからなくても、試合の中継とか観れるじゃないですか。でもエンターテインメントに関してはやっぱり言語の必要性や重要性が高い。誰かが海外へ行って英語で活動しても、言語がわからないから日本人はあんまり興味を持たない、みたいな。それこそ、真田広之さんは海外にでて相当の評価を得ているはずなのに、一般的に案外昔のイメージで止まっていたりするじゃないですか。 佐藤:たしかに。海外の話じゃなくても、なにか事務所として今後仕掛けていきたいこととかあるんですか? 山田:この対談の趣旨としては、もうちょっと派手なことを言いたい気はするんですけどね(笑)。でもずっと言っているように「これからのマネジメントとは」というのを哲学的に考えているタイミングではあって、いまは、所属タレントたちがどうヒットを作れるか否かみたいなことを地道に考えています。でもやっぱり、自分が関わっている音楽で世の中をざわつかせたいとは当然思っています。 佐藤:僕らの世代は、ずっと変わらなかった芸能界が変わり始めた過渡期を知っていて、変わらない頃、変わり始めたいまの両方を知っているからこそできることがあるなと思うんです。一方で、昔のことも知っているから新しいほうに行き切れないところもあるというか。 山田:大人たちに首根っこ掴まれている世代っていうかね。 佐藤:でもたぶん、いまの若い子たちはもう旧来のことはわからないと思うし、旧来の人たちも若い子たちのことはわからないと思うんです。僕らも、若い子たちの首根っこ掴もうなんて思わないし。だから、ここからが楽しいのかなと思うんです。 山田:僕もそう思いますね。芸能というか、もっとエンターテインメント、楽しいことが起きやすくなると思いますし。 佐藤:芸能界は、変わらないのがちょっと長すぎたんでしょうね。ここまで変わらずに来てしまった、最後の業界くらいじゃないですか? 山田:そうですね。芸能界が、ようやく変わる時期が見えてきたんじゃないかと思います。
鈴木 梢