真野恵里菜、「よく見られたい」ばかりの元アイドルから、本格女優への飛躍
「もうちょっと大人になった方がいいよ」という先輩からのアドバイス
こうした気持ちが変化したのが『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』という作品だったという。 「約半年間の撮影で、同じスタッフさんや共演者の方とご一緒したので、すごく仲良くさせていただいたんです。先輩方が多く、そのとき『真野ちゃんは頑固だよね。いまは末っ子で伸び伸びしているのはいいけれど、もうちょっと大人になった方がいいよ』とアドバイスをいただいたんです。その言葉はすんなり私の心に入ってきました。そこで『このままじゃ私、この先、役者としてダメだ。もっと人の意見を聞いて柔軟性を持たないと……』と気持ちが変わったんです」 この助言で、自身のなかにあった“頑固さ”が消えた。役柄に対しても、人の意見にも柔軟に対応できるようになっていったという。ときを同じくして、演じるキャラクターの幅も広がっていった。 「アイドル時代はよく見られたいという気持ちばかりでしたが、いまはお芝居を通して、いろいろなイメージを持っていただくことが楽しい。気持ちもとても楽になって余裕が持てるようになりました」と目を輝かせる。
『坂道のアポロン』で試みた「その瞬間を生きる」芝居
表現者として更なる高みを目指しているという真野。『坂道のアポロン』では、作品の空気感のなかで芝居をすることを心がけたという。 「ディーン・フジオカさん演じる“淳兄”との大事なシーンがあったのですが、これまでだったらいろいろと前日から考えてしまっていたと思うのです。でも、台本通りお芝居をたどってしまったら、シーンとして成り立たないと思ったので、当日、ディーンさんとお会いして、そのときの空気感で、百合香がどんな感情に突き動かされるか……。その場のその瞬間を生きようと思って臨んだんです」 こうした真野のアプローチ方法は、功を奏し、劇中、百合香が大胆な行動をとるシーンは、人々の感情を揺り動かす緊張感とリアリティーがあった。 「以前、鴻上尚史さんの『ベター・ハーフ』という舞台に出演させていただいたとき『演じるのではなく、その空間をただよいなさい』とアドバイスされたことがあったのです。お芝居ってフィクションなのですが、嘘のなかの本当を作らなければいけないんですよね」と自身の課題をあげる。 知名度もあがり、街で声をかけられることも増えたというが、「注目や評価をしていただけることはすごくありがたいのですが、その状況に自分の技量が追いついていないという感覚があるんです」と心情を吐露した真野。
「『もっといい芝居をしなければ』と思うのですが、一方で『芝居がうまいってなんだろう』という疑問もあります。いまは壁にぶつかっていて、結構行き詰っているんですよね」と苦悩の日々であることを明かすが「でも後ろを振り返れば、『モーニング娘。』の工藤遥ちゃんが、役者の道を進み始めたので、先輩としては、思い悩んでいるのではなく、しっかり頑張っている姿を見てもらいたいという気持ちもあります」と前を見つめていた。 (取材・文:磯部正和 撮影:中村好伸)