ゾロアスター教の再興を図る人々、ユダヤ教とキリスト教とイスラム教に影響与えた宗教の今
発祥の地の外で生まれた新しい進歩的なコミュニティー、預言者ザラスシュトラの教えに従えば誰でも信者に
ゾロアスター教といえば、とても古い時代の、一風変わった宗教といったイメージがあるが、土台となる教えは普遍的なものだ。善と悪の闘い、復活、死後の世界。核心をなす教えは、「善い思考、善い言葉、善い行い」である。 ギャラリー:謎に包まれたシルクロードの古代王国の街「カロン城」とは ゾロアスター教の拝火神殿も 伝承によれば、開祖のザラスシュトラは古代の多神教の神官だったが、その信仰に疑問を抱き、最高神のアフラ・マズダーから啓示を受けて、独自の宗教を打ち立てたという。ザラスシュトラの生まれた場所や年は不詳だが、多くの学者はゾロアスター教の聖典『アベスタ』の記述から、紀元前1700~1000年頃に中央アジア、おそらく今のアフガニスタンかタジキスタンにいたと推測している。 唯一の最高神や善悪二元論など、ゾロアスター教の世界観は「アブラハムの宗教」と呼ばれるユダヤ教、キリスト教、イスラム教に深い影響を与えた。死後の世界や最後の審判など、ユダヤ教の基本要素を強化するうえで、ゾロアスター教が役立ったと見る学者は多い。 ゾロアスター教が最初に現れ、広まった地域の片隅には今も細々と信仰を守り続けている正統派の信者たちがいるが、その数は減少の一途をたどっている。かつてのペルシャ帝国とその周辺、つまり今のイランとインド、パキスタンに、10万人足らずの信者が残っているだけだ。 しかし過去100年ほどの間に、この宗教は発祥の地から遠く離れた米国ロサンゼルスやメキシコの首都メキシコシティ、スウェーデンの首都ストックホルムなどに広まった。そこでは、はるか昔に現れた預言者ザラスシュトラの教えに従うのなら誰でも信者と認めるという、新しい進歩的なコミュニティーが生まれている。 北米のゾロアスター教徒人口は、民族・宗教的な制約のために減ることはなく、今では安定していると、インディアナ大学のジャムシード・チョクシー教授は話す。比較的若い世代のカップルが多く、信者ではない相手との結婚もさほど珍しくない。「将来に夢をもてる、より若いコミュニティーという全体像が非常にしっくりきます」とチョクシーは言う。 現在、北米には少なくとも2万5000人のゾロアスター教徒がいるが、実際はそれよりどのくらい多いのか、どの程度のペースで増えているのかは把握しづらい。イラン系信者の多くが信仰を明かしたがらないからだ。 それと同時に、北米に移住したインド系の信者や、その2世や3世は、正統派パールシー(ペルシャから来た人々、と呼ばれるインドのゾロアスター教徒)の影響力が大きいため、地元のコミュニティーに入りたがらないようだ。「ヒンドゥー教徒と結婚した、あるいは米国人男性と結婚したから、自分は入会を拒まれると言う人たちがいます」とワディアは話す。 「そのたびに言って聞かせるんです。『そんなこと誰が言ったのですか。誰でも入れますよ。ゾロアスター教徒でなくても、聖なる火がともる礼拝所で祈ることができるんです。ここでは、インドでまかり通っているような基準や決まり事に縛られることはありません』とね」 進歩的な信者にとって、ゾロアスター教は万人に開かれた宗教だ。彼らが最も重視するのは「ガーサー」、すなわち預言者ザラスシュトラと最高神のアフラ・マズダーの対話に基づく詩篇である。ガーサーには戒律は一切書かれていない。ゾロアスター教の祈りの言葉はほとんど、自分がなすべきことに対する深い思索にほかならないのだ。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版「ゾロアスター教 聖なる火を守り続ける」より抜粋。
文=クリスティン・ロミー(英語版編集部)