交流戦史上最高打率、日本ハム水谷瞬がプロ1号に込めた恩人への感謝
感謝のパフォーマンス
スタメンの座を勝ち取って間もない6月2日。待望の瞬間が訪れた。DeNA戦の四回、豪快なプロ1号2ランが飛び出した。ベンチで仲間とハイタッチをかわした後、水谷が見せたのは「熱男ポーズ」だった。ソフトバンクの中心選手として長年活躍し、巨人を最後に昨季限りで引退した松田宣浩さんが現役時代、本塁打を放った後に披露していたパフォーマンスだ。これには、水谷が抱く感謝の思いが込められていた。 ソフトバンク入団2年目の20年9月。当時3軍のコンディショニング担当だった川村隆史さんと、プロ初本塁打を打った時にどんなパフォーマンスを見せようかと「雑談の感覚で」話をしていた。いくつか候補があった中の一つが「熱男ポーズ」。まだ実績もなかった水谷が、当時現役の大ベテランだった松田さんにオフの自主トレーニングで世話になったからだ。 そんな会話を交わした数日後、川村さんが遠征先でくも膜下出血のため死去。55歳だった。以来、水谷は「1本目を打ったら、それをやろう」と心に決めていた。「4年越しにはなってしまったけれど、松田さんと川村さんに届ける思いでやった」。初アーチの翌日、水谷の元に松田さんから祝福と感謝のメッセージが届いたという。 ◆「余裕、ゆとり、次」 チャンスをつかんで毎日試合に出るようになり、心境の変化も見えてきた。以前は打席で、「いいところを見せようとか、打ってやろうとかそういう気持ちが強かった」。今は違う。水谷がしばしば口にするのが「一日一本」とのフレーズ。一本は安打を意味する。「試合が続く中、一日一本の意識があれば、自然とその日の1本目だけに集中できる。1本出たらまた次、2本目、3本目と、そういう気持ちになれる」 失敗しても、また次のチャンスがある―。いい意味で心にゆとりが生まれていることが、言葉からにじむ。6月13日の中日戦では、同点とする2点三塁打など2安打3打点で勝利に貢献。試合後、「僕の中では『余裕、ゆとり、(打てなくても)次』という気持ちを持てるようになってきた」と語った。 ◆中日の細川に続けるか 現役ドラフトは昨年が2度目。その制度によって、新天地でチームの中心打者へと躍進した野手の代表格が、中日の細川成也外野手だろう。水谷も「(今年)一年が終わった時に、細川さんのような状態になれていたらいい」と意欲を示す。その上で「今はいい感じできているかもしれないけど、絶対に壁にぶつかる」と気を引き締め、それを乗り越えていく覚悟だ。 「出来過ぎかもしれないが、勝負できるという気持ちと技術は身についた」と自己評価。日本ハムは開幕から好調を維持し、交流戦終了時点でパ・リーグでは2位ロッテとゲーム差なしの3位。苦しみながらも意義のあった5年間を糧に、飛躍のシーズンを目指す水谷。たくましく、力強く前進しながらチームを支える。