注目すべきは目黒蓮の“聞き取れないほどの声量”?新ドラマの難役が「彼らしい」と言えるワケ
うまく聞き取れないほどの声量
海は、日差しをきらきら反射させる夏の海みたいに元気な子だ。対する夏は、海を認知し、父親として振る舞うべきなのか迷いながら、どちらかと言えば、どんよりとした雰囲気。 第一、夏は根暗な性格ではないが、とにかく声量が小さい。目黒特有の低音ボイスの心地よさはあるものの、か細いというか、蚊の鳴くような声というのか。 海にしろ、夏と現在交際する百瀬弥生(有村架純)にしろ、終始はつらつとしている。水季の母親で海の祖母・南雲朱音(大竹しのぶ)だってちゃきちゃき発声している。夏ただひとり、テレビ自体の音量をかなり上げないと視聴者にはうまく聞き取れないほどの声量なのだ。
目黒蓮と生方脚本の組み合わせ
ただ、この声量の小ささは、海を娘として認知するかしないか以前からの問題。第1話冒頭、夏と弥生が夏のアパートに帰ってきたときの場面。「あぁ」とか「う~ん」など、夏は判然としないボソボソとした反応で終始受け答えする。 弥生が、「うんとさぁううんの間みたいな返事やめれる?」と言っても、夏は、「う~ん」と再びボソボソ。でもこれは、ボソボソ台詞の反復を得意とする脚本家・生方美久が書いた作品世界なのである。 生方の前作『いちばんすきな花』(フジテレビ、2023年)にしろ、目黒蓮が主演した前々作『silent』(フジテレビ、2022年)にしろ、主人公がはっきり声を発することは極力抑えられていた。 目黒と生方脚本の組み合わせとは、静かなる声のドラマで共通する。だから本作が7月期の新ドラマ、しかも月9だろうと何だろうと、夏と海の晴れやかなムードとは関係なくても納得出来てしまう。
言葉よりも雄弁な想像力
第2話で、夏の父親・月岡和哉(林泰文)と母親・月岡ゆき子(西田尚美)が、夏についてのこんな会話を交わす。「何も考えてないんじゃないの」、「考えすぎちゃって言葉になるのが人より遅いだけだもんね」。そう、夏は単に声が小さく、ぼんやりしてばかりいるわけではないのだ。 彼なりに考えて言葉を発しているし、ちゃんと想像力を働かせている。朱音から「この7年の水季のこと想像してほしい」と言われたことを弥生に話す夏が、「想像しただけでわかった気になっちゃダメだと思ってる」と認識を示す場面からもわかる。 つまり、言葉が少ない分、夏は海に会いに行ったり、行動に置き換えることを忘れない。その上で目黒がボソボソ言葉の余白をうめるように演じ込む。感情があまり上下しない夏は、かなりの難役でもある。 ここでもうひとつCM作品の話題を出すなら、キリン午後の紅茶「紅茶の聖地」篇新で目黒は、日本から遠くスリランカで茶摘みを体験する。束の間、紅茶栽培の工程を体験したあと、日本の日常風景にひゅっと戻る。俳優としての目黒蓮にとっては、言葉よりも雄弁な想像力がマジカルな瞬間をあらわし出す。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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