【アジア杯コラム】アジアの強豪イラン代表、実績十分“おじさん軍団”で48年ぶりの栄冠狙う
イラン代表のAFCアジアカップ出場選手リストを見た時の第一印象は「いつもと同じ」だった。26人のうち初招集の選手は2人だけで、A代表キャップ数が50試合を超えている選手が10人もいる。 全く驚きはないが、チームの平均年齢は優勝候補と目される国々の中で最も高い。30歳以上のベテランが12人選ばれた一方で、23歳以下の若手はたった2人しかいないのである。 ただ、「いつも同じ」だからこそ戦いぶりは安定している。2023年は11試合を行なって無敗。アミル・ガレノエイ監督の就任初戦となった3月のロシア代表戦は引き分けたものの、次のケニア代表戦から9連勝を飾り、2023年を9勝2分という圧倒的な成績で走り抜けた。 アジアカップに向けてペルシャ湾に浮かぶキーシュ島で国内合宿を張ったイラン代表は、1月5日にブルキナファソ代表との国際親善試合に2-1で勝利し、無敗記録を12試合に伸ばした。さらにカタール入り後の1月9日にインドネシア代表と非公開の最終テストマッチを行なって5-0の大勝。13試合連続無敗と最高に勢いづいた状態でグループステージ初戦を迎えようとしている。 2023年3月に就任したガレノエイ監督は、カルロス・ケイロス前監督がカタールワールドカップまでに築いてきた強固な基盤を受け継いで、そのまま現在までのチーム作りに活用している。 自らも元イラン代表選手だった指揮官は、国内リーグで監督として5度の優勝を経験。現役時代にプレーしたエステグラルをはじめ、セパハンやトラクター・サジ、ゾブ・アハンなど数々の強豪クラブを率いてタイトル獲得に導いてきた。イラン代表監督を務めるのは2007年以来2度目で、かつて清水エスパルスで監督を務めたアフシン・ゴトビ氏以来12年ぶりの自国出身監督でもある。 そんな名将は4-2-3-1のシステムをベースにチームを作ってきた。敵陣内で前向きにボールを持てた瞬間からの速攻の迫力は凄まじく、格闘家かと見まごう堂々たる体格の選手たちが押し寄せて、一気にゴールを奪いきる。FWサルダル・アズムンを頂点に、やや下がった位置からFWメフディ・タレミやFWアリレザ・ジャハンバフシュといった欧州での経験も豊富なアタッカーたちの織りなす豪快なカウンター攻撃は見応えがある。 一方で懸念すべき点もいくつかある。まずは相手の速攻に対する脆弱性だ。ベテランの多いディフェンス陣はスピード対応に難を抱え、パス1本であっさり背後を取られてしまう場面も散見される。昨年11月に2-2で引き分けた北中米ワールドカップのアジア2次予選・ウズベキスタン代表戦でも相手の速攻から2失点を喫した。 また、今月5日のブルキナファソ代表戦ではビルドアップ時に自陣中央でパスを受けたMFサマン・ゴッドスが孤立して相手にボールを奪われ、そこからのショートカウンターで先制点を許した。アジアカップでは主導権を握って攻める時間帯が長くなりそうなだけに、不用意なボールロストとカウンター攻撃を受けることだけは避けたい。 ディフェンスラインは横の揺さぶりにも脆さを見せる。サイドに大きく振られたうえでクロスを上げられると、たびたびファーサイドから飛び込んでくる選手を見失ってシュートに持ち込まれてしまうのだ。守備陣はロングボールを跳ね返したり、危険なスペースに入ってくる相手FWを潰したりすることに長けているが、付け入る隙は十分にある。 そして、ベテランの多さが大会を勝ち進むにあたって足枷にならないとも限らない。過密日程で試合を次々にこなしていく中で、これまで固定気味だったメンバーをどのようにやりくりしながらベストに近いコンディションを維持していくか。中心的役割を果たすベテランたちにできるだけ負傷者を出さずに戦っていくためのマネジメントに関しては、ガレノエイ監督の手腕が問われるところだ。 若手にわずかなチャンスしか与えず、なかなか新陳代謝を促せない指揮官に対してイラン国民からは反感もあるという。それでも戦力的には十分に優勝を狙える陣容が整っているだけに、48年ぶり4度目のアジア制覇も夢ではない。 アジアカップ直前に負傷から復帰してメンバー入りを果たした33歳のベテランFWカリム・アンサリファルドは、地元メディアに対して「我々はイラン国民を幸せにするためにここにいる。初戦のパレスチナ代表戦で、イラン代表がどれだけ強いのかを見せてやる。自分たちを試されているが、見る者をあっと言わせることができると思う」と語ってアジア制覇への自信をのぞかせた。 ローマに所属するエースストライカーのアズムンがクラブ事情により開幕直前まで合流できないため、あと1試合でA代表通算100キャップに到達するアンサリファルドも大会序盤から重要な存在になるはず。百戦錬磨な中東の“おじさん軍団”が大舞台でどれほどの爆発力を見せるか、イラン代表の底力に注目したい。