アンプティサッカー5年(下)日本の戦術を変えた惨敗、W杯快進撃へ
国内で堅守の潮流、W杯初勝利へ
その潮流に乗り、14年12月、日本は3度目のW杯に挑戦。関係者によると、日本アンプティサッカー協会最高顧問を務めるセルジオ越後氏も、守備の重要性を指摘していたという。 「アンプティは(11人制の)サッカーの考え方でいくとやられるかもしれない。サッカーは前に上手い選手を入れるけど、アンプティは逆。上手い選手を後ろに置いて点を取られないことを中心にして、チャンスが1つ2つあったら、それを決めたら勝つから」。 セルジオ氏はもう一つ、大きな助言を与える。アンプティはパラリンピック競技ではないため、代表への公的助成はない。合宿や渡航、ユニホームなどの費用は自己負担だ。日本協会は少しずつではあるが、着実にスポンサーを開拓して、初出場から4年後のメキシコ大会では、企業5社などから約500万円を集めた(ただ、費用全額はまかなえず、選手・スタッフは1人約10万円を払ってW杯へ)。スポンサーは非常に大きな援軍だったが、プロではない選手たちには、「世界で初勝利を」との当然の期待を、プレッシャーに感じる部分もあった。 そんな中、セルジオ氏は「気負わなくていいから。普段通りやればいいから」と、語りかけたという。過去2回のW杯経験があっても、緊張する大舞台を前にした選手たちに、「普段通りの力を出す」ということを意識させた、心強い一言だった。 新戦力が加わったものの、エンヒッキ、萱島、加藤誠(32)ら中心選手は変わっていない。戦力的に劇的な上積みがあったとは言えなかったが、日本は躍進した。 鍵はやはり守備力だった。思い起こされるのは、岡田武史監督が率いた2010年のサッカー南アフリカW杯の日本代表。DFラインと一列前に2列の分厚いブロックを作る守備的戦術で結果を出したが、アンプティの日本代表も2列のブロックを作った。フィールドプレーヤーが6人制で、守備を1枚や2枚で戦うチームもあるが、日本は戦術が定まらなかった前回の反省から、フォーメーションを3-2-1に固定。最終ラインの3枚は自陣を固め、中盤の2枚も守備の意識を高くした。基本的に攻めはトップの1人で、チャンス時でも中盤の1人が攻め上がるだけ、中盤のもう1人は、ほぼ守備に専念した。トップの選手はフォアチェックだけでなく、相手のDFを引き連れて攻撃の枚数を減らす役割を果たした。 「守備重視にも実は難しさがある。誰がつくのか、どこまでマークにつくのか。アンプティは広さをカバーするのは難しいし、消耗も激しいので全部は追えない。今回は戦術の徹底や、後ろからの守備の指示があった。間合いをとってコースを切ったり、外を捨てて中に絞ったり、考えた、割りきった守備ができた」(中盤の2枚に入った加藤)