ヤバイTシャツ屋さん、祝・結成10周年! ベストアルバムで再確認した愛すべき魅力
ヤバイTシャツ屋さんがベストアルバム『BEST of the Tank-top』をリリースした。そのアルバムで再確認したヤバTの魅力について。
「尖り」と「優しさ」が絶妙なバランスで成立しているバンド
#ヤバT10周年 #ヤバTを紅白に出してあげて #ぼぼちゃんたけちゃん結婚おめでとう 先月、ヤバイTシャツ屋さんの公式Xがいつも以上に賑わっていた。普段からポストもリポストも大量だが、11月4日でバンドが結成10周年を迎えたり、ありぼぼ(ベース&ヴォーカル)とお笑い芸人・どんぐりたけしが入籍したこともあり、バンドの公式アカウントは一時期お祭り状態に。『NHK紅白歌合戦』に落選したことは悔しいが、落選したことも上記のようなハッシュタグで公式が発信し、こちらもそれに乗っかりツイートをすれば、結果的にはヤバTがトレンド入り。そしてバンドの知名度上昇に繋がっていく――って、見事にヤバTの手のひらの上で転がされている気がしなくもないが、改めてユーモアに溢れたバンドだなと思った。そんな怒涛の1ヵ月ではあったが、何より触れておきたいのは11月15日にリリースされたベストアルバム『BEST of the Tank-top』だ。 すでに手に取った人も多いと思うが、この作品にはヤバTの良さが凝縮されている。全27曲というド級のヴォリュームに加えて、自身が出演した「SUUMO」のCMソングなど音源化されていなかったレア曲も数多く収録。特筆すべきは、この作品のために書き下ろされた新曲「BEST」だ。ベストアルバムに対して嫌悪感を抱くアーティストもいる中、冒頭から〈BEST ALBUM 大好き〉と唄いきる潔さったらない。 〈アーティストを代表する曲/沢山収録されてて/お得な感じがするよな〉 〈サブスクが主流のいまは/プレイリストで事足りるよ/自分で並べればいいだけ〉 〈むしろ事務所も(むしろ事務所も)/そんなに乗り気じゃないのに/無理を言って こっちの都合のいい時期に出す/生きた証 形に残す〉 その後もベストに対する熱い思いが綴られているが、「ベストアルバムのリリース」というトピックもこうして笑いに変えつつ、それでいて正直な思いを吐露できるのは流石だと思う。このようなヤバTの曲を「ネタに走ってる」と言う人もいるかもしれないが、それは違う。確かに意図的にウケを狙っている部分もあるだろうが、私はヤバTのユーモアは彼らなりの照れ隠しだと思っている。それが顕著に表れている曲が、ベストアルバムにも収録されている「かわE」だ。 〈君はかわE 越して かわF やんけ!〉 〈王道ラブソング 照れくさいね/覚悟を決めて 歌ってみたいけど/まだふざけていたい ギリで刃向かう〉 好きな人に対して「かわいい」の一言さえも言えず、照れ隠しから独自の言葉に変換しているこの曲。ラブコメ映画『ニセコイ』の主題歌として書き下ろされたものではあるが、この曲には先ほど述べたような照れ隠しや、あまのじゃくな人特有の感情が凝縮されている。 そしてもう一つ。ヤバTに魅力を感じている点といえば、彼らのユーモアは人を傷つける要素がないということ。ベストアルバムに収録されてない曲で恐縮だが、汚れた珪藻土マットを洗おうと水に濡らしたところ、汚れ共々どんどん吸収されてしまった曲(「珪藻土マットが僕に教えてくれたこと」)もある。ヤバTの曲はこういったあるあるネタというか、身近なエピソードが描かれているものがほとんど。それらを聴いて不快に感じることはないし、むしろリテラシーを高く持ちながら曲を生み出し続けていることに感動すら覚える。そして、在りし日の自分と歌詞を重ね合わせて泣きたくなることだってある。これまたベストに収録されてない曲で恐縮だが、彼らと同じくゆとり世代の自分には「ゆとりロック」が猛烈に刺さった。 正直に言うと、私は昔ヤバTのことがそこまで好きではなかった。彼らの曲をよく聴きもせず、「奇を衒ったことをして目立とうとしているバンド」と思い込んでいたのだ。しかし、誌面でヤバTのページを作るにあたり曲をちゃんと聴くことで、その思いはいとも簡単に覆された。意図的に奇を衒っている部分もあると思うが(本人たちは米粒サイズで、ほぼ海しか写ってない写真をアーティスト写真にしていたこともあるし)、知れば知るほどヤバTは「尖り」と「優しさ」が絶妙なバランスで成立しているバンドであることがわかった。曲を聴けば音作りにも綿密に向き合っていることが伝わってくるし、特にもりもりもと(ドラム&コーラス)の骨太なドラミングは、このバンドをロックバンドたらしめていると思う。 最後にもう一つ。ヤバTの大きな魅力といえば、こやまたくや(ギター&ヴォーカル)の作曲力だ。先ほど述べたように、ヤバTの歌詞は身近なエピソードが多い。それだけが売りなら彼らの曲は単なる「ネタ」として終わるだろう。しかし、純粋にロックバンドとして〈あ、この音カッコいいな〉と思うことも山のようにある。メロディックパンクとポップが融合したサウンドが絶妙なのだ。しかも、一回でも聴けば自然と口ずさみたくなってしまうものが多い。そういった点からこのバンドが子供に愛されていることにも納得がいくし、CMソングの如くずっと記憶に残るようなサウンドを生み出し続けているこやまは、ゆくゆくは稀代のメロディメーカーとして歴史に名を刻むのではないかと半分本気で思い込んでいる。 ここまでヤバTのことを絶賛し尽くして、我ながらPR案件のように見えなくもないな……と思ったが、もちろんこの原稿を書くにあたってヤバT側からは一切お金をもらっていない。ヤバTの曲はやっぱり素晴らしい。彼らの魅力がもっとたくさんの人に伝わってほしい! ベストアルバムを聴いて改めてそう思ったから。ただそれだけのことだ。 もしかつての自分のように、ヤバTの曲をよく聴きもせず敬遠している人がいるとしたら、それは実にもったいないことだと思う。騙されたと思ってこのベストアルバムを聴いてみてほしい。きっとあなたの心はいろんな角度から動かされるはずだ。そして、 #ヤバT紅白出場おめでとう いつかの年末、このハッシュタグでヤバT祭になることを心から願っている。 (リリース情報) ヤバイTシャツ屋さん 10th Anniversary BEST ALBUM 『BEST of the Tank-top』 2023.11.15 RELEASE
宇佐美裕世(音楽と人)