2016年「物理学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想
この現象は2枚のコインがどんなに離れたとしても起こります。別々の2枚なのですが、もつれさせると、1つの運命共同体のように振る舞うのです。 ここではわかりやすくコインの表と裏で例えましたが、量子テレポーテーションの実験で現在使われているのは、主に光子です。光子の場合、表と裏ではなく、光子の「位置(どこにいるか)」と「運動量(どの方向にどのぐらい動いているか)」のことを量子情報と言い、それらの情報を伝送することを目標にしています。 たとえば地球から火星に「光子の量子情報」を伝送する場合、まず量子もつれ状態にある光子のペアをつくり、片方を火星に運んでおく必要があります。このペアが、「情報の送り手」と「受け手」となります。そして、「火星に(量子情報を)送りたい光子」を用意し、地球の「送り手」の光子と混ぜ、強制的に影響を与えます。すると量子もつれのおかげで、地球の「送り手」と運命共同体にある火星の「受け手」の光子も、その影響を受けるのです。 あとは、地球の2つの量子をまとめて観測した結果を火星にメールで送り、その結果に基づいて調節した粒子を火星の「受け手」にぶつけると、「受け手」の光子自体が、もともと送りたかった光子の量子情報を持つことになるのです。これで目的通り「地球にあった光子の量子情報が火星に伝送された」ことになるのです。(※量子テレポーテーションについて、こちらのブログでイラストを使いながら詳しく書いてあります)。 量子テレポーテーションという現象が起こりうることを提唱したのが、ベネット博士、ブラッサール博士、ウーターズ博士です。そして世界で初めて量子テレポーテーションを実際に成功させたのが、古澤博士です。 量子テレポーテーションを成功させたということは、いままで誰も入ったことのなかった実験的な量子の世界のドアを開けることができたということ。この世界の現象を応用することで、例えば、処理速度が現在のものとは比べ物にならないほど速い「量子コンピューター」の開発につながるかもしれません。 ◎予想=科学コミュニケーター・雨宮崇