グランドスラムを制する「テニス王」を目指して―9歳の九州大会チャンピオン高木咲來さんと父勲さん〔後編〕
2023年7月に開催された「第50回九州ジュニアテニス選手権大会兼全日本ジュニアテニス選手権'23九州地域予選」の12歳以下部門で優勝した高木咲來(さくら)さん。現在9歳の小学3年生、いま注目のジュニアテニスプレーヤーだ。1歳になる前にラケットを手にし、4歳で初めての試合に出場。指導に当たる父の勲さんと共に、常に世界を意識してトレーニングを行なってきた。夢に向かって挑む高木さん親子の日常に迫った。
トレーニングは辛くない、毎日が‟たのしろい”
咲來さんのトレーニングは、朝起きた時から始まる。ストレッチ、腕立て伏せ40回、スクワット50回を3セット、ゴムチューブやバランスボールを使った運動メニューなどをこなす。普段の練習場所は、自宅からほど近い公営のテニスコート。コートではまず周囲を軽くランニングし、縄跳び。よく見ると縄を2本手にして軽々と二重跳びをしている。サイドステップやクロスステップ、メディシンボールやソフトボールを使ったトレーニングの他に、チューブや棒状の器具を使って体幹を鍛える。ホースや園芸用の支柱を使った勲さんお手製のものだ。 一連の基礎トレーニングを終え、ようやくラケットを握る。まずは勲さんが球出しをして、位置を変えながらストローク練習。フォームなどに対する勲さんの細かな指摘に、着実に対応していく。ミスショットはほとんど無い。レシーブやラリーの練習を行い、最後はゲーム形式でサーブとレシーブを交替して打ち合った。 勲さん渾身のサーブは、初めは全く返せなかったのだが、回を重ねるうちにボールにラケットが届くようになっていく。練習が終わる頃にはレシーブを返し、ポイントを取れるまでになっていた。「3日前にできなかったことができるようになっている」と勲さんも興奮気味だ。 トレーニングをきつい、やりたくないと思うことはないのか尋ねると、咲來さんは「ない!」と即答。「トレーニングはね、きついからこそやりたい。さーちゃんはね、強くなりたいとよね。トレーニングは強くなるためにやるから、きついとは思わないよ、“たのしろい”」 「楽しい」と「面白い」を合わせて“たのしろい”。咲來さんが自分で作った言葉だ。勲さんは、「楽しいというのは与えられたもので、面白いは自分で見出されるもの。内側から探求してワクワクする、面白いが大事だなと思っていたところ、咲來はそれを超えて“たのしろい”と言ったんです」と話す。 練習の成果も実感している。朝日山の芝広場には、こぶ状に地面が盛り上がった場所があるが、あえてそこを走る。「上り下りすると足に負担がかかるけれど、ものすごく足首にいいし、一歩がめっちゃ大きくなる。ネットで前に出されたボールを取るイメージで走っている」(咲來さん) 「それまで触ることのできなかった僕のスーパーショットを完璧に返してきたんです。朝日山のトレーニングで歩幅が大きくなったと言うんですよ」と勲さんも驚く。「強くなりたい」という純粋な思いが、厳しいトレーニングに向かう原動力になっている。