なぜ女性は登ってはいけない 内モンゴル神聖な場所「オボー」の言い伝え
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。 ----------
「オボー」とはモンゴルの各地に祭られているその地の神々が宿っている場所であり、氏族のシンボル的な存在でもある。主に、高い山、丘などに石、木、最近ではレンガやセメントなどで作ることもある。 2012年に私はジューグン・ウジュムチン・ホショーのサーメ・ソムにあるハダン・オボー祭りに参加することができた。 モンゴルでは従来から、オボーには女性が登っていけないとされてきた。現在でも多くのところでは禁止されている。ここでは意外にも、男女関係なく登っていた。 なぜ、女性が登ってはいけないかについては、はっきりした結論はないが、幾つかの理由が挙げられている。 もともと昔、オボーは地域の境目に設置された軍事用の施設でもあり、見晴台として、防衛の役割を果たしていたという説では、男たちが集まり、重要な軍事話をしていても、女性は口が固くないので、秘密を漏らしてしまうために禁止された、と言われている。 また、女性がオボーを登っている最中に月経がきたら、聖なるオボーを汚してしまうという理由から禁止されたとも言われている。多くのオボーでは、女性が勝手に登った場合、何らかの不幸にあったり、地域に災害が起きると信じられている。 2015年にフロンボイル市のボグド・オールという全自治区でも有名なオボー祭りを撮影したことがある。そこでは一番高い丘に主なるオボーがあり、男性のみが祭ることが許されていた。それよりも低いオボーも幾つかあり、それぞれ、女性用、子供用と馬用(馬をそのオボーに連れてきて、もっと早く走るようにお願いする)に分かれていた。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第3回」の一部を抜粋しました。 ---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。