【欧州CL分析コラム】アーセナルはなぜ“サブ組”に完敗した? インテルが上手、完璧だった対策とは?
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第4節、インテル対アーセナルが現地時間6日に行われ、1-0でホームチームが勝利を収めた。この試合でインテルはリーグ戦から5人のメンバーを入れ替える大胆なターンオーバーを行った。それでも強豪アーセナル相手に勝利を収めることができた理由とは。(文:安洋一郎) 【リーグフェーズ順位表・対戦表】UEFAチャンピオンズリーグ24/25
●ターンオーバーしたインテルがアーセナルに勝利 インテルからすると、アーセナル戦はほぼ完璧に近い“理想的な展開”での勝利だった。 シモーネ・インザーギ監督のチームはこのビッグマッチに向けて、先週末のヴェネツィア戦からスタメン5人を入れ替える大胆なターンオーバーを行った。 いかなる強豪クラブであっても、5人の主力選手をベンチに置いてベストパフォーマンスを発揮することは難しいだろう。今回の対戦相手であるアーセナルもスタメン組とベンチ組の差は激しい。 しかし、シモーネ・インザーギ監督が率いるインテルは、選手を入れ替えても戦力が落ちない数少ない例外と言っていいかもしれない。 ●アーセナルはほとんど決定機を作れず インテルの指揮官は今季の開幕から度々「我々には23人のファースト・チョイス・プレーヤーがいる」と語っており、どの選手が試合に出てもハイパフォーマンスを発揮できる選手層を作り上げている。 アーセナル戦のターンオーバーは今週末に行われるリーグで首位に立つナポリ戦を意識したものではあることは間違いないが、リーグフェーズ第2節と第3節でも大幅な選手の入れ替えを行っており、スタメンとサブの明確な線引きがないほどに均等な戦力を保持している。 一方のアーセナルは負傷離脱中のデクラン・ライスと、この試合に向けてメンバー入りを果たしたマルティン・ウーデゴールを除いてはベストな布陣でインテル戦に臨んでいる。しかし、セットプレーを除いてはほとんど決定機を作ることができず、最後までインテルの強固な[3-5-2]のブロックを崩すことができなかった。 アウェイチームに最後のアイデアが足りなかったと言えばそれまでだが、インテルが“アーセナルの強みを消した“というのが、この試合を平等に評価する上では正しい表現だろう。 ●アーセナルの強みを消したスタメン選出 ミケル・アルテタ監督が率いるアーセナルの強みは、エースのブカヨ・サカがいる右サイドからの攻撃だ。ベストな布陣が揃えば、ウーデゴールとベン・ホワイトの3人のユニットからなる崩しのアイデアが豊富で、右サイドを起点に多くの強豪相手から得点を奪ってきた実績もある。 アーセナルが右サイドを強く意識しているのはデータにも表れている。データサイト『WhoScored.com』に掲載されているピッチを縦に3分割(左・中央・右)し、どのエリアからの攻撃が多いかを示す指標では、右サイドからの攻撃がプレミアリーグでは44%、CLでは47%を占めていた。いずれもリーグトップの数値である。 このアーセナルの強みに対して、シモーネ・インザーギ監督は明確な“対策“を打ち出した。 本来であればボール出しが得意なアレッサンドロ・バストーニを左CB、正確な左足のキックを持つ攻撃的なフェデリコ・ディマルコを左WBで起用するところを、対アーセナル専用の布陣で左CBにスピード豊かなヤン・アウレル・ビセック、左WBにベテランのマッテオ・ダルミアンを起用したのだ。 ●“相手のエース“サカを封じた方法 前提として、自陣で[3-5-2]のブロックを構えるインテルは常に「数的優位」な状況を作り出すことを意識していた。 クロスを上げる選手に対してはWBとインサイドハーフのダブルチーム、ボックス内に入ってくる選手に対しては3人のCBと逆サイドのWBが高い集中力を持ちながら対応。後ろの枚数が多いことからボールサイドに対して躊躇なくプレッシャーを掛けることができており、アーセナルにオープンプレーからはほとんどチャンスを作らせなかった。 その中でビセックとダルミアンが与えられた役割は、徹底してサカに得意な形へと持ち込ませないことだった イングランド代表でも中軸を担うアーセナルのエースは、本来であれば相手にダブルチームを組まれた状況でも打開できるクオリティを持ち合わせている。ドリブルなどのオンザボールだけでなく、背後への動きにも優れており、彼を封じ込めることは簡単ではない。 そんな難敵相手への対策でスタメンに抜擢された両名は自らに与えられた仕事を愚直にこなした。 本来は右CBで起用されることが多いビセックはスピードに優れた選手で、サカが時折みせる裏抜けに対しては素早いカバーリングで対応。1対1の守備でも簡単に抜かせることなく、逆に前半開始早々にはドリブルでの持ち運びからイングランド代表FWを抜き去って敵陣に押し込む場面も見られた。 ダルミアンはピオトル・ジエリンスキとのダブルチームで常に数的優位を保ちながら、逆サイドからのクロスに対してはマーカーを見失わずに対応。サカとの比較ではスピードで劣るが、ジエリンスキとの2枚で左足のクロスを消しつつ、縦のドリブルを誘いだす形で相手の精度を上げさせない守備を披露した。 サカが苦戦を強いられたことはデータとして証明されており、この試合の地上戦は11戦でわずか2勝。今季のプレミアリーグで勝率50%以上を記録しているアーセナルのエースが、いかに苦しめられたかがわかるだろう。 ●選手交代も完璧だったインザーギ采配 インザーギが仕掛けたアーセナル対策を打破するべく、アーセナルのミケル・アルテタ監督は後半開始から最前線で出場していたカイ・ハフェルツのポジションを下げる戦術的な変更を行った。 ハフェルツには普段ウーデゴールに与えられているような中盤のフリーマンの役割が与えられ、その効果が早くも後半開始直後に出て停滞していた右サイドからも惜しいクロスが上がり始めた。 しかし、アーセナルは最後まで得点を奪うことができなかった。その要因として大きかったのはインテルが前半終了間際にPKから先制に成功していたことで、これによってホームチームは前半と比較すると、後半はリスクを避けてチームとして守備の意識をさらに高めていた。 インザーギ監督は交代カードの切り方もタイミングも抜群で、62分にはニコロ・バレッラら先週末の試合で先発していた計3選手を投入。前半からハードワークをこなしていた中盤にフレッシュな面々を起用した。 仕上げには、79分にツートップの一角を削ってディマルコを投入。この試合でキーポイントとなっていたサイドの守備に厚みをもたらすことに成功し、そのまま逃げ切って勝利を収めた。 完璧とも言える良いプランを前にアーセナルの強力攻撃陣は、セットプレー以外で自分たちが得意とする形でチャンスを作らせてもらえず。使える駒の多さを武器に相手の対策をしっかりと行い、それを実行したインテルが完勝を収めた。 この勝利は週末に行われる首位ナポリとの直接対決に向けても良い弾みとなるだろう。 (文:安洋一郎)
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