アルコ&ピースが上田慎一郎監督作『アングリースクワッド』に最大級の賛辞!「平子をダマすって、相当なもんですよ?」
わずか2館での上映からSNSや口コミで話題が広がり、センセーションを巻き起こした『カメラを止めるな!』から、早7年。上田慎一郎監督が『カメ止め』の公開前から動いていた渾身のプロジェクトがついに結実。韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師~38師機動隊~」を原作として“上田節”を存分に効かせた、裏の裏の裏まで読んでもなおダマされる痛快系クライムエンタテインメントに仕立てたのが、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(11月22日公開)だ。 【写真を見る】アルコ&ピースの2人が陥った人生最大の窮地を明かす!?「目をつぶってハンコを押しました」 MOVIE WALKER PRESSのYouTubeチャンネル「酒と平和と映画談義」でもおなじみのお笑いコンビ、アルコ&ピースの2人も「気持ちよくダマされた!」と、鑑賞後に上田監督とキャスト陣に最上級の賛辞を贈っている。その熱量を活字に落とし込むべく、平子祐希&酒井健太に本作を熱く語ってもらった。 税務署に務める真面目な公務員・熊沢二郎(内野聖陽)は、天才詐欺師・氷室マコト(岡田将生)の巧妙な詐欺に遭い大金をだまし取られてしまう。親友の刑事・八木晋平(皆川猿時)の助けで氷室を追いつめるが、見逃せば脱税王の悪名高き実業家・橘大和(小澤征悦)の尻尾を掴ませると持ち掛けられ、手を組むことに。スゴ腕ぞろいの詐欺師集団“アングリースクワッド”の一員として、橘に地面師詐欺を仕掛けて10億円をダマし取る計画に参加する。こうして、双方が“裏の裏”を読み合う壮絶な騙し合いバトルが始まった! ■「伏線回収の見事さは、決められたゴールキーパーも思わず拍手しちゃうみたいな爽快感」(酒井) ──先ほど、取材に先んじて本作の感想を語るお二人を拝見しました。本当におもしろい映画を観たあとって淀みなく「おもしろかった!」という感想が出てくるものですが、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』に対するお2人の称賛は、まさにそれかと。 平子「例えば、食レポで本当に食べたものが美味しかった時って、まず第一声が『美味しかった!』しか出てこないというか、目をつぶって『…んまいなあ』って素直に言えるんですよ。『アングリースクワッド』に対する感想は、その映画版ですね。心の底から『おもしろかった!』って言えるんです」 酒井「伏線回収の見事さはもう…(サッカーで相手のFWに)めっちゃ綺麗なループシュートを決められて、そのすばらしさに、決められたゴールキーパーも思わず拍手しちゃうみたいな爽快感がありますよね」 ──まさしく「観たあとで胸がすく」映画で、スーッとするんですよね。 平子「終盤で辻褄が全部グッと合うじゃないですか。見事なまでにキレイに洗い流してくれるので…これは褒め言葉として言うんですけど、イイ意味で残らないんですよ。あとで噛み砕くのも楽しいけれど、まずは観終わったあとの清涼感の強さを感じましたね。誤解のないように言いますと、ちゃんと満たされるんですよ。お腹いっぱいになるんです。でも、帰る時にレジ横でミントのガムをくれる、みたいな。そこでスーッとすることで、ラーメンならもう一杯ぐらいまだ入りそうだな、ぐらいの感覚で店を出られるっていう。つまりは心地がいいんですよね」 ──それこそ、内野聖陽さん演じる主人公・熊沢の終盤でのセリフが“ミントのガム”的な役割を果たしているのかな、と。 平子「これもいい意味で言うんですけど、内面的な描写に逃げていないんですよね。人間は行動するにあたって動機や理由があるんだ、という部分の説明が明確かつ明快で、なおかつ伏線回収の心地よさもあるから、観終えた時にミント系の爽快感があるんだろうな、と」 酒井「いろいろ入り組んでいたりすると、説明くさくなっちゃうじゃないですか。『えっ、そこまでセリフで言っちゃうの?』って、観ていて白けちゃうパターンも結構ありますし」 平子「でも、『アングリースクワッド』はそういう説明があっても親切かも…と思うくらい伏線が張られているんですけど、ストーリーの流れでスムーズに見せていく。噛んでいて歯に詰まるようなスジがないというか、スッと噛みきれちゃうんです。そこがすごい」 ■「平子をダマすって、相当なもんですよ?」(平子) ──ストーリー運びが絶妙だからこそ、物語にもストレートに没入していけるんですよね。ちなみに、お2人が感情移入したキャラクターをそれぞれ挙げるとすると? 平子「やっぱり…内野聖陽さんのスゴさですよね。大げさじゃなくて、本当に主人公の熊沢、内野さんが演じられているとは思えなくて。『内野さんって、こんなに情けなくないよな、頼りなくないよな』って半信半疑で観てしまう。『もしかして長年舞台で活躍してきた、実力のある知る人ぞ知る俳優さんが抜擢されたのかな?』と思わされるくらいの“演者の勝利”感。平子をダマすって、相当なもんですよ?」 酒井「いやいや、相当でしょ。上田慎一郎監督だもん」 平子「そうそう、上田&内野タッグでね、平子をもダマすっていう。まずは、その“演者力”にやられましたね。でも、なんの疑いもなく気持ちよくダマされるくらい引き込まれました」 ──聞くところによると、上田監督と内野さんは脚本を練っている段階で原作の「元カレは天才詐欺師~38師機動隊~」のマ・ドンソクさんを想起させるからと、主人公の名前を熊沢から一度は“コジマ”に変えたそうで…。 酒井「そう、それスゴくないですか?なんですか、コジマという平凡な名前に変えることで、マ・ドンソクのイメージを払拭させてから脚本を練り直すって?『そんなことまでする作り手と俳優さんがいるんだ!?』って驚きました、僕は」 平子「熊っていうワードが強いんですよね。『コジマに変えて作り直したらマ・ドンソクのイメージから離れられたから、やっぱり熊沢に戻そう』って言っちゃう内野さんもスゴい」 酒井「スゴいよね!俺もそういうのやってみようかな。一度、“コジマのニュアンス”入れてみようかな?」 平子「その作業を内野さんと上田監督でやっちゃうのがスゴいよね」 酒井「語り継がれそうなエピソードだよね」 平子「なんだろうな…王(貞治)さんと長嶋(茂雄)さんにしかわからないような領域の会話っていうのがあって、我々にはうかがい知れない感覚、感性っていうところの世界観の話ですよ、こうなると。もう別次元の話」 酒井「しかも内野さん自ら、『(熊沢役に合う)いい眼鏡を見つけた』って監督に電話してくるっていうのもスゴいよね」 平子「その眼鏡のチョイスも絶妙なラインでね。普通だったらイメージを伝えて、あとは衣装さんに任せるっていう感じだと思うんですけど、別現場の合間なのか、お休みの日なのかわからないけど、熊沢という役のことを気に掛けているっていう。もっと言えば、内野さんほどのキャリアや実力のある俳優さんなら、演技で公務員っぽい堅さだったり、熊沢の情けなさを見せられると思うんですよ。でも、さっきもお話したように内面的な表現に逃げないんですよね。眼鏡という現物を使ってしっかり見せられる強さ、と言いますか。それをやられちゃったら、ほかの人が太刀打ちできない。僕だったらドヤ顔で言いますもん、『(眼鏡に象徴されるニュアンスは、)演技で見せるわ』って。『いい眼鏡を見つけたよ』って、うれしそうに監督に電話してくる人間力、引いては演者力がすさまじいなと思いましたね」 酒井「いや、ホントに太刀打ちできないよね。で、自分が感情移入したのは、皆川猿時さんが演じられた、熊沢の親友(=警察官の八木晋平)ですね。たぶん僕もあの人みたいな感じになると思います。『脱税王に詐欺を仕掛けるなんてやめとけよ、無理だよ』なんて言っているんだけど、なんだか関わっちゃうっていう。でも、皆川さんの役もいいキャラクターですよね。親近感がわくというか」 平子「皆川さんが演じることによって、キャラクター設定を解きほぐしてくれるところがあるよね。そんなに登場シーンが多いわけではないんだけど、説得力がある。前半で人間性をしっかり見せているからこそ後半の行動に整合性を持たせていて、しかも皆川さんの演技でいたって自然に見えるのがスゴいなと思いました」 ■「インテリア1つで説明しちゃうのがスゲえなあって」(平子) ──確かに。ちなみに、岡田将生さん演じる、この物語のもう1人の主人公たる天才詐欺師・氷室マコトについてはいかがでしょう? 平子「生成AIじゃないかって思うくらい美しく、一方で翳りもあるっていう。あと、僕が注目したのは氷室の部屋のインテリアなんです。すごく簡素な部屋の中に、多分、すごく貴重なパーテーションが1つ置いてあって。氷室という人物にもいろいろな面があるわけですけど、そのパーテーションがあることによってインテリジェンスを感じさせる要素になっていて。僕がインテリア好きだからというのもありますけど、ひと目で彼のバックグラウンドが見えたんです。なので、あのパーテーションを置いたスタッフさん…美術監督さんとめちゃめちゃ話したいんですよ。『どういう意図で置いたんですか!?』って」 酒井「へえ~!スゴいところ見てるな」 平子「そのこだわりの強さに、人物像を感じとることができたんですよね。直線が多くて簡素で清潔感がある部屋なんだけど整然としていて、ともすれば(『新世紀エヴァンゲリオン』の)綾波レイの部屋のようになってしまうところを、インテリア1つで説明しちゃうのがスゲえなあって」 ──そういった視点を持ち合わせていなかったので、目からウロコでした! 平子「見方によっては無機質にも感じられてしまう部屋の中で、唯一人間性が感じられる置物というか。あのパーテーション1つで氷室の感性や感覚を如実に表しているように、僕には見えたんですよね。まあ、その部屋のキッチンでつくるパスタもおしゃれではあったんですけど(笑)、そういったところで氷室という人を説明せずに深掘りしているのが見事だなと思いました」 ──確かに。酒井さんからご覧になって、氷室というキャラクターで気になった部分はありましたか? 酒井「そうですね…妙にファンタジーな存在になりすぎないように見せているのかな、と僕は思いました。刑務所から出てきて、すぐにアイスを食べていたりするところとか、人物描写が巧いなあって」 平子「天才が脳みそを働かせるために糖分を摂取する、と思わせておいて…ああ、ここから先はネタバレだから話せないわ(笑)。でも、ただなにか食べさせるならアイスじゃなくてもチュッパチャプスでもなんでもいいわけじゃないですか。いや…もしかしたら上田監督のことだから『安い描写に思わせておいて、実は…』って計算していたかもしれないなあ」 ■「家を買った時も、わからないふりして全部ハンコ押しました」(酒井) ──その可能性はありますよね。で、ちょっと本線からは脱線するんですが、お2人は窮地に陥るもその場の機転で乗り切った経験というのはありますか? 平子「どうだろう?乗り切れなかったことはいっぱいありますけどね。コントでも漫才でもネタが滑っているから途中で変顔を入れたけど、やっぱりダメだったっていう。でも、それで言うと、芸人は窮地から脱さなくていい職業でもあるんです。若手とか駆け出しの時は、窮地からもがいて這い上がろうとして空気が淀んじゃうことが多々あったんですけど、芸歴を重ねて、いまはきれいに落ちることができるようにはなりましたね。なので、脱するっていうより“落ちることで脱する”という境地にいたったと言いますか。若い時は痛くないふりをして、ゆっくり立ち上がって変な空気にしちゃっていたんですけど、ある時期から『イテテテテテ!』って、ちゃんと声に出せるようになったんです。それもようやく最近、ですかね…。そっちのほうが小銭が入るぞっていうことに気がついたのもありますけど(笑)」 ──“落ちることで脱する”、ナルホド。酒井さんはいかがでしょう? 酒井「なんでしょうね…でも、僕はそれこそ窮地じゃないふりをしちゃうかな。家を買って、“こんなローン組むんだ…”って思った時も、わからないふりして全部ハンコ押しましたから。絶対、いまの世の中的に自分は間違いなく窮地であるんですけど、もう知らねえやって目をつぶってハンコを押しました」 平子「同じ時期に家を買ったんですけど、僕も不動産会社の人に言われました。『手、震えないんですね』って。金額を見たら震えちゃうと思うから、もう『甲』と『乙』の字しか見ないようにして。甲と乙のどっちがこっち側なのかもわかっていないんですけどね」 酒井「唯一、割り印を押す時はドキドキしましたけどね」 ──橘に地面師詐欺を仕掛ける『アングリースクワッド』の本編でも印鑑絡みのシーンがあるので、そこにつながりましたね! 平子「そういえば、確かにそうだ(笑)」 ■「おもしろい作品が作れて人当たりも柔らかくて…非の打ちどころがないなんてズルい」(平子) ──というところで話を本線に戻しまして、お2人は上田監督とも対談されたそうですが、作品のみならず人間性にも惹かれたと聞きました。 平子「そうなんですよ、こんなにおもしろい作品が作れて人当たりも柔らかくて…ズルいですよね、非の打ちどころがないなんて。だから、どこか欠陥があってほしいというか。例えば、ささくれが剥けやすいとか(笑)。でも、酒井も言っていましたけど、作品に人間性がにじみ出ているんです。それは確かに見ていて感じ取れますよね」 酒井「そういう人柄だから、役者さんもちょっとわがままを言いやすかったりするんじゃないかなあ」 平子「相対する俳優さんの持ち味を取り入れて、よりよいものにして画面上に出せるような人間性と技術を持ち合わせているというか。取りまとめ力?吸収力も人間力も高い方ですよね。『カメラを止めるな!』でも結果を出して、今回もこれだけの映画を作れるんだから、もっと生意気でもいいのになって僕なんかは思っちゃったりもするんですけど(笑)、きっと楽しいことが好きなんでしょうね、純粋に。お話して感じたのは、すごく少年っぽさが残っているなっていうことです。実は脱税とかしていてほしいんですけどね(笑)。上田監督が脱税で捕まったら、本当の意味で『アングリースクワッド』が完成するんじゃないかな?」 酒井「自ら身体を張って作品と現実をリンクさせるっていう(笑)」 平子「そこまでやったらスゴいよな。めちゃくちゃ笑い転げるよ」 ──上田監督にはまだまだ日本映画を盛り上げてほしいので…「次はこんな映画を撮ってほしい!」と勝手にリクエストをするなら、お2人はどんな映画を望みますか? 平子「どストレートな恋愛ものを観てみたいですよね。照れを一切なくしたラブ・ストーリーで、徐々に惹かれ合っていくとかじゃなくて、映画が始まって3分で恋愛が成就するんです。そこからの長尺でどう恋を描くのかを見てみたくて。付き合ってからの感情の揺れ動きだったり機微を上田監督が描いたら、どうなるのかなって。たぶん、そのほうが難しいと思うんですよ。伏線とか張りようがないので。でも、伏線ゼロで上田監督がなにを回収するのかが見てみたいし、ものすごくおもしろい映画を見せてくれるんじゃないかなって」 酒井「確かに、伏線ナシっていう縛りはあった方が逆におもしろくなりそうですよね。『絶対ダメ、伏線ナシ!』がルール」 平子「伏線張ったら電流が流れます」 ──ディレクターズチェアに“ビリビリ”が仕込んであるんですね(笑)。 平子「次の3つのお題を破ったら、ビリビリが発動します。①成就している恋愛、②登場人物は誰も死なない、③悪人ゼロ!ただただうまくいっているだけの恋愛をどう見せるかがポイント」 酒井「めっちゃ難しそうだな(笑)」 平子「本来なら死ぬほどつまんない映画になりかねないところを、上田監督ならエンタテインメントに昇華させてくれるんだろうと期待して。しかも上映時間は180分で!なんならワンカットで」 酒井「ムダに超大作すぎるだろ。でも、確かに観てみたいなあ(笑)」 取材・文/平田真人