「まるで大本営発表」の声も…理不尽な解散劇を経ても「SMAPイズム」が生き続ける明確な理由
「SMAPイズム」が叩き潰されて…
2016年8月13日、午後9時――私は旧ツイッターで<複数の芸能マスコミの方々からご連絡いただき、明日のスポーツ紙で報道! と確認しました>とSMAPの解散を伝えた。反響は大きかった。<デマだ><嘘でしょ?><ガセネタだったら謝罪しろ!>等のきびしいリプライが殺到した。 【画像】キー局アナウンサーも…本誌が入手「指名候補・NGリスト」実物写真 まだマスメディアが発表していない、その時点だ。個人のツイートで発信したのは私だけだった。知人の芸能関係者らと連絡を取って情報をつかんだのである。 <SMAPファンの皆さんに、この今に本当のことを伝えられないのは申し訳ない>と悔し泣きに泣いている記者もいた。 翌日のスポーツ新聞は全紙が1面トップでSMAP解散を伝えている。これには仰天した。リオ五輪の開催中で、日本人選手が金メダルを取った翌日である。それをすっ飛ばして、全紙横並びの1面でジャニーズ事務所からの指示通りの記事を発表した。さながら戦時中の大本営発表である。しかも誰一人、事前に漏らさない。ジャニーズ帝国の情報統制のすさまじさに、恐れ入った。 その後、取材依頼が多数、届いた。ジャニーズ事務所に対する批判的な私のコメントが、朝日新聞からニューヨーク・タイムズにまで載った。当時、大手メディアで正面きってジャニーズ批判を展開していたのは、ジャーナリストの松谷創一郎氏と私ぐらいのものだったと思う。 <ファンをないがしろにしたアイドル文化は必ず滅びると思います>という当時の私のツイートに、先頃、<予告通りになりましたね>とリプライがあった。そう、あれから7年が経過した今、ジャニーズ事務所が消滅したのである。これこそSMAPの呪い…いわゆる<7年殺し>であろうか。 SMAPは、単なるアイドルではない。それは一つの生き方だ。<ナンバーワンにならなくてもいい>。戦後の高度経済成長期、上を向いて歩こう、GNPナンバーワンをめざした時代(とき)とは違う。 たしかに木村拓哉はスターだが、石原裕次郎や美空ひばりのような大スターではない。SMAPの仲間がいるからこそ輝く。キムタクもまたオンリーワンだ。我々と同じように。 SMAPのメンバーは70年代生まれの団塊ジュニア世代で、我が国最後の人口ボリュームゾーンである。日本中のあらゆる街でSMAP的な人間関係の仲間たちがいるだろう。 普段はバラバラだけど、(SMAP✕SMAPならぬ)SNSでつながっている。時々集まって力を合わせ、互いにオンリーワンとして輝く。そんな「SMAP的なもの」、平成最良の精神を、私は<SMAPイズム>と呼びたい。しかし、それは無惨にも叩きつぶされた。<SMAPイズム>は敗北したのである。 SMAPの解散発表があった8月、天皇陛下が肉声で国民に「お気持ち」を伝えられた。生前退位のご意向を示されたのだ。しかし、SMAPは解散コンサートどころか、記者会見すらやらない。彼らの肉声は聞こえない。ジャニーズ事務所は皇室以上にアンタッチャブルな存在なのか? ◆キムタクが抱えていた葛藤 解散の真相を本人たちが語らないので、推測するしかない。前年1月の「週刊文春」でメリー喜多川がインタビューに応じた。常軌を逸する発言の連発だった(この時、メリーは88歳だ)。その場に飯島三智マネージャーを呼びつけ<対立するならSMAPを連れていっても今日から出て行ってもらう。あなたは辞めなさい>と言い放ったのだ。次期社長は、娘のジュリー景子だ、とも。 その後、飯島はSMAPの担当をはずされ、2016年1月にジャニーズ事務所を退社する。そう、公開処刑とも呼ばれた『SMAP✕SMAP』でのメンバーらの謝罪があった月だ。SMAPの育ての親である飯島三智が事務所に切り捨てられたことが、その原因としてあったのだろう。 謝罪会見の様子や、その立場上、木村拓哉は悪役のようになってしまった。彼以外の4人はジャニーズを離れていく。どうしても飛び抜けた人気者であったキムタクが、仲間を見捨てた裏切り者のように見えたものだ。 ただ、彼のために弁護しておきたい。SMAPの存続をもっとも強く望んだのは、木村拓哉なのだ。しかし……。当時、木村だけが結婚して妻と子供を持っていた。他の4人とは立場が異なる。 SMAPが結成された時、香取慎吾は11歳だった。ほんの子供だ。見捨てられた子供だった彼らを救ったのは飯島三智である。その飯島を切り捨てることなど決してできなかったことだろう。 もう一つ、SMAPというグループの大きな特質を挙げておきたい。 2001年8月、稲垣吾郎が現行犯逮捕された。都内の駐車禁止区域で免許提示を求めた女性警察官を無視して、車を発進しようとした疑いによる。稲垣は5ヵ月間、芸能活動を自粛した。 2009年4月には、草彅剛もまた逮捕されている。都内の公園で泥酔して全裸となり、通報された。公然わいせつの現行犯である。翌日、釈放され、起訴猶予となったが、1ヵ月余りの芸能活動の自粛を余儀なくされる。 稲垣、草彅の両者とも、活動復帰に際しては『SMAP✕SMAP』の番組内で謝罪した。他の4人のメンバーも一緒に頭を下げた。国民的人気のアイドルグループから2人も現行犯逮捕者を出すなんて、前代未聞だろう。大事件となり、大きく報道され、グループ存続の危機だった。 たとえば、ここが後続の人気グループ、嵐との大きな違いだろう。嵐はさすがに逮捕者など出さず、際立った不祥事もない。優等生グループだ。しかし、SMAPは……。 そうなのだ。SMAPのメンバーは間違いも犯すし失敗もする。完璧ではない。不完全な……普通の人間なのだ。私たちと同じように。そうして真摯に謝罪する。メンバーたちも仲間のために一緒に頭を下げる。それを、私たちは受け入れた。いや、その姿勢に親近感を覚え、以前よりずっとSMAPのことが大好きになった。 ◆ジャニーズが消滅したとしても… たった一つ受け入れられなかったのは、そう、2016年1月のあの”公開処刑”と呼ばれた意味不明な謝罪だけだ。 SMAPファンのことを考える。これほど理不尽な目に遭ったアイドルのファンもいない。 SMAPが解散の日を迎えたら、自殺者が出るんじゃないか? テロでも起こるんじゃないか? と、私は心配した。しかし……。 ファンたちが取った行動は、まったく予想外のものだった。 ある日、新聞を開くと、全面を占拠したそのメッセージが目に飛び込んでくる。 <いつもたくさんの愛と勇気をくれたSMAPへ> SMAP大応援プロジェクトを題するそれは、ファンの有志がクラウドファンディングを募り、大きな反響を呼んだものである。朝日新聞の紙面8ページを独占して、1万3千人ものSMAPファンの名前が掲載されたのだ! そうして『世界に一つだけの花』がヒットチャートを急上昇して、10余年ぶりにトップに輝く。これもまたファンの力を結集したステートメントだった。 強硬な抗議や暴力的なテロルではない。誰も傷つけない、これこそSMAPファンによるメッセージなのだ。 どうして、こんなことができたのか? それは、あの平成という時代に……月曜日の夜10時からみんなで同じ時間を共有して、生きた。笑った。泣いた。そうして学んだのだ。そう、本当に大切なことを。毎週毎週、実に、20年間にもわたって……。 SMAPは解散して、あの輝かしいグループはもうこの世には存在しない。 しかし、SMAPが生み出した本当に素晴らしいものがある。それは……SMAPのファンだ! SMAPとは一つのスピリットであって、<精神のSMAP>が存在する――と私は書いた。その意味で、SMAPは今も生きている。 そう、ファンの皆さんが、SMAPなのだ! そこにSMAPの精神が確実に息づいている。これこそは日本のアイドル文化が獲得した最高のものだ、と信じる。 ジャニーズは滅んでも、SMAPは永遠に生きる!! 取材・文:中森明夫
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