なりたくてもなれない? 鳥龍茶のおかしさに気づく仕事は狭き門
校正や校閲の仕事が話題になっている。テレビドラマで取り上げられただけではなく、新聞の中には訂正欄を詳細に記すようになったところもあり、正しい言葉、正しい内容であるかどうかがますます問われる世の中になってきた。
紙メディアは直しがきかない
筆者は先日、ある校正者の集まりに参加してきた。校正・校閲の段階で見落とされ、そのまま世に出たものを参加者で読み合わせていた。 大きなところほど、よく間違えるという。タイトルや見出しなど、人の目につきやすいところで誤植がある。NHKのニュースサイトで「雨のおそれ」を「雨のおぞれ」と表示していたことが話題にあがった。しばらくして修正されたものの、これが紙メディアなら直しがきかない。 同じような漢字も間違える。例えば「烏」と「鳥」だ。「烏」は「烏龍茶」という言葉で知られている漢字だ。一画少ないだけなので、見落とす危険性もある。 その他にも、固有名詞の間違いや、ルビのふり間違いも多いという。固有名詞の間違いでは、「菊池」「菊地」など、同じ読みで違う漢字のもので間違うことが多いという。 ある参加者は「手描き漫画の書き文字に誤りがあることもある」と言った。漫画のセリフは、一般のものでは入力した文字で記されるが、エッセイ漫画のセリフや文字は手描きであることが多い。そういったものは、著者に戻すのだという。 よくある誤りのたぐいは、日本エディタースクールから刊行されている『標準 校正必携』にまとめられているので参考にしたい。
校正者になるには、どうしたらいいか?
大手総合出版社の子会社で長年校正の仕事に関わっている人によると、校閲部を専門で持っている出版社は10社に満たないという。その中で、新卒で「校閲」の採用を行っているのは、講談社だけとのこと。採用は1年に1人程度。校正の学校を出ている必要はないが、ふつうの厳しい入社試験を受けなければならない。また、総合職として採用され、その中でジョブローテーションで校正の仕事をすることもある。 一般には、日本エディタースクールなどの校正者養成学校に通い、そこの課程を修了したことで「校正技能検定初級」を取得し、そこから校正プロダクションの校正者や、校正者を募集している出版社や編集プロダクション、印刷会社の校正者になるというルートが多い。有名な校正プロダクションには、鴎来堂、ぷれす、東京出版サービスセンターなどがある。 ただし、出版社内での校正者もしだいに減少しているという。校正が厳格なことで知られる名門出版社では、校正部門の正社員は役職者を除き3人で、多くを外部に委託しているという。大手出版社でも専門の校正・校閲セクションのないところも多い。 現在、校正・校閲をコスト削減のために省力化している出版社もある。校正の回数を減らしたり、著者校正だけですまそうとしたりしている場合もある。 しかし、校正者の世界にはこんな言葉がある。「校正おそるべし」。東京日日新聞(現在の東京本社版の毎日新聞)の福地源一郎のものだ。念入りに文章を点検しても、必ず間違いは見つかる。ちょっとの誤字脱字が重大な不祥事を招く。そのためにも、専門の校正者による校正・校閲作業は必要なのだ。 (ライター・小林拓矢)