「団塊的・昭和的・高度成長期的」思考からの転換期 「人生の分散型」社会に向かうビジョンと方向性
それは象徴的に言えば、「人生の分散型」社会と呼べるような社会のありようとも言える。つまり本稿で述べてきた団塊・昭和・高度成長期に象徴されるような、人口や経済が拡大を続け、それと並行して“すべてが東京に向かって流れる”とともに、人々が単一のゴールを目指し、“男性はカイシャ人間となり、女性は専業主婦として家事に専念する”という「単線的・集中型社会」からの根本的な転換をそれは意味するだろう。 AIシミュレーションが示した未来像は、成熟社会あるいは定常型社会への移行という、日本社会の中長期的な構造変化に関わる内容でもある。しかもそうした方向は個人の「幸福(ウェルビーイング)」にとってもプラスの意味をもつことがシミュレーションの中でも示されている。
■真の「持続可能な福祉社会」へ 私自身はこうした形で開かれていく望ましい社会像を「持続可能な福祉社会」と呼んできたが、“団塊的”な価値観からの根本的な移行を経験しつつある現在の時代状況を踏まえながら、日本社会の大きなビジョンと方向性を議論していくことがいま求められている。 そして本稿で一部示唆した、こうした文脈において浮かび上がってくる“「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ”という新たな日本像の展望については、機会をあらためて主題的に論じていくこととしたい。
広井 良典 :京都大学 人と社会の未来研究院教授