“新星ハリウッドスター”グレン・パウエル 『ツイスターズ』『ヒットマン』で新たな才能開花
グレン・パウエルのもう1つの魅力は絵に描いたような逆三角形の口角
本作でグレパが演じるのは大学で哲学と心理学を教える教師ゲイリー。髪はヨレヨレ、服装は短パン。生徒には「あいつシビックに乗ってるんだぜ」としょうもない陰口を叩かれている。あのグレパがセクシーオーラを完全に封印。ダサい。地味すぎる。趣味は精密機器のハンダ付け。それが高じて週末は地元警察で盗聴機器のオペレーターをしている。ある日、覆面捜査官に欠員が出たことから急遽ゲイリーが代打に立つことに。殺し屋に変装し、殺人を企てる依頼者を逮捕するのだ。不測の事態にうろたえるゲイリーだが、いざ口を開けば「殺し屋っぽい」台詞が次から次へと出てきて……。 グレパのもう1つの魅力は絵に描いたような逆三角形の口角。常にニヤけて見える“ファニーフェイス”は素っ頓狂な実話をベースにした本作にピッタリ。依頼者のプロファイリングに合わせ、様々な殺し屋像を作り上げていくグレパ百面相はまだ序の口。思い詰めた表情を浮かべ、モラハラ夫の殺害を依頼するマディソン(アドリア・アルホナ)が現れれば、ここでようやく僕らの知るワイルド&セクシーなグレパに変貌だ。『ヒットマン』はリンクレイターが描き続けてきた実存を問うコメディであり、他人の願望に合わせ様々な人格を作り上げていく主人公の新たな目覚めである。いつものイケ散らかしたグレパとダサいグレパをシームレスに横断する変わり身は抱腹絶倒もの。彼が単なるセックスシンボルに留まらず、ユニークな性格俳優であることがよくわかるはずだ。アドリア・アルホナとの共演はスクリーンが霞むほど色っぽく、『ヒットマン』は近年、漂白され過ぎたハリウッドに再び“セックス”を取り戻した映画でもある。 テレビシリーズでブレイクする俳優が多い昨今、あくまで映画でキャリアアップしているのもグレパの頼もしいところ。そんな彼も次回作でいよいよテレビシリーズに本格進出する。最新作『Chad Powers(原題)』は主演のみならず、エグゼクティブプロデューサーと脚本も兼任。素行不良でキャリアを台無しにしたクォーターバックが、善良な優等生チャド・パワーズに変装し、弱小チームに参入するスポーツコメディのようだ。自分の出たい作品は自分で製作するのが2020年代ハリウッドスターの流儀。今後の活躍が実に楽しみだ。
長内那由多(Nayuta Osanai)