SAPをイメージチェンジしたい--最高マーケティング ソリューション責任者に聞く方向性
--2024年中に生成AIの「Joule」がSAPでよく使われているタスクの80%をカバーすると発表しています。JouleによってSAPのインターフェースが変わることは、社内の機能開発にどのような影響を与えているのでしょうか。 生成AIには無限の可能性があると感じています。SAP社内で積極的に生成AIを使っており、これを使って、SAP顧客にどのようなメリットを提供できるのかを考えています。 現在、生成AIというとチャットですが、サプライチェーンの問題を予測したり、営業の案件を管理したりするなど、さまざまに活用できます。エンジニアリングチームから生成AIのユースケースとして1000以上のアイデアが出ており、それを整理しながら実装しています。Jouleがインターフェースになっていくことを前提に開発が進んでいます。 --イベントの基調講演では「RISE with SAP」にスポットを当てました。中規模顧客向けの「GROW with SAP」の最新動向はどうなっていますか。 GROW with SAPは、AIを組み込んだERPをSaaS形式で利用できるもので、顧客がすぐに価値を得られるようにツール、サービス、トレーニング、コミュニティーを含んでいます。GROWの顧客は世界50カ国以上に広がり、Jouleをサブスクリプションの一部として利用できるようにしました。また、GROW with SAP Premiumでは「SAP Sales Cloud」「SAP Concur」を追加料金なしで利用できるようにしました。 GROWは、RISEほど複雑ではないので、基調講演では時間を割いて紹介していませんが、成長しているプロダクトです。今後も機能を強化していきます。 --SAPは、顧客体験(CX)の資産を持ちますが、ERP側とシナジーは生まれているのでしょうか。 SAPにフロントとなるCXとERPがあることは、戦略的な差別化につながっています。特にSAP Sales Cloudや「SAP Service Cloud」は数年をかけて再構築したところで、今後さらに連携が容易になり、シナジーをアピールできると思います。 --(DXなどでは)データドリブンの重要性が言われていますが、企業ではサプライチェーンなど個別の取り組みにとどまる傾向があります。全社がデータドリブンになるためのアドバイスがあればお願いします。 データドリブンは新しい言葉ではありませんが、ここ最近の生成AIブームによって、さらに重要になっています。データからより多くの洞察を簡単に得られるようになりました。これまで洞察を得るためには、データを統合する必要がありました。生成AIにより、データの連携が容易になっています。 データドリブンになるためには、人・プロセス・システムの3つの面での変革が必要です。システムを整えてデータを収集するだけでなく、人が「いつもこうしているから」という考え方を変え、「データが何を語っているか」という視点を持つことが重要です。人とカルチャーが最も難しい課題かもしれません。ツールやシステムは存在しますが、それらを正しく活用しなければなりません。 一方で、いきなりデータドリブンといっても難しいので、サプライチェーンや人事、財務など特定の分野で始めるのが現実的な進め方です。全ての部門、事業がある程度デジタル化されていなければ競争に生き残ることができないと考え、進めていく必要があります。 --最高マーケティング ソリューション責任者として、今後2~3年の最優先事項は何ですか。 2021年にSAPに入社し、それからずっと大きなチャンスだと感じていることがあります。それは、SAPに対する人々の認識やイメージを変えることです。SAPは素晴らしい企業で、SAPにしかないヘリテージ(遺産)や伝統があります。一方で、それが時として、人々がSAPに抱く認識を古いままにしています。 SAPの最盛期は過去のものか、これからなのか。成功している企業に対して、人々は「最盛期はこれから」と答えるでしょう。現時点でそう答えてくれるSAPの顧客は100%ではありません。これを変えていくのが私の仕事です。語るだけでなく示すことで、もっと説得力のあるメッセージなります。 SAPには、「ECC(ERP Central Component)」を使っている顧客がいます。20~30年前に開発されたものです。しかし、10年前のiPhoneを使っている人はほとんどいません。SAPの最新技術を使ってもらうことで、SAPの現在の価値を知ってもらいたいのです。それが私の願いであり、目標です。 (取材協力:SAPジャパン)