"0-88"の大敗がもたらした変身 「一人の世界に浸るハードラー」が「仲間思いのタックラー」に
0-88。 2週間前は、0-104だった。 大敗に次ぐ、大敗。2試合、合わせて、0-192。 【写真】0-88を示す得点板、またしても厳しい現実を突きつけられた 10月6日、関東大学ラグビーリーグ戦3部、第3戦。東京都立大学、東京農業大学に、またしても大敗を喫した。 反省は尽きない、光は見えない。でも、そんな時こそ、強引にでもポジティブな何かを見つけ出して次につなげていくことが、負けても負けても試合が続くリーグ戦では大切だ。 おそらく、人生も、そう。 この日の都立大なら、立ち上がりだった。試合の出だしでけつまずいてしまうのは、ここ数年の悪いクセ。この日の都立大は違った。逆説的だけど、ディフェンスで前進する。タックルで、前へ前へ。そうやって相手の攻撃を押し戻し、自陣から敵陣へ。相手ボールで始まったキックオフからの5分間限定だったけど、悪いクセを克服できた。 進撃のタックルの中心に、フランカー木本悠仁(ゆうじん、2年、宮城第一)がいた。 相手がパスを回す、一心不乱にダッシュして間合いを詰める、飛び込むようにタックル。その繰り返し。 大学でラグビーを始めた、ラグビー歴たった1年半の、素人タックラー。 「僕、タックルしか、できないですから」 2週間前。昨年王者の新潟食料農業大学に大敗した時も、やはりラグビー歴1年半の素人タックラー、山田晃大(2年、茗渓学園)が愚直なタックルで王者に抵抗を試みていた。 そして、この日の木本。 何度でも、書く。 何をやっても、うまく転がらない時。得てして、こういうシンプルな行動と思考がきらりと光ることがある。小さくまとまろうとするのではなく、一点突破で突き抜けようとする、シンプルに尖(とが)った行動と思考が。 格好なんて気にせず、一心不乱になれるヤツの、一心不乱な振る舞いが。
自分一人の世界
オレって、チームプレーには向いてないよな。そう自覚しながら育ってきた。 小学生時代、サッカークラブに通っていた。アイツはこう動くだろう。だから、オレはこう動いて、こういう風にパスを出さなきゃ。そんな風に考えながらプレーするのが苦手だった。 中学校で陸上部に入った。専門は110mハードル。仲間が何を考えているのか。そんなの関係ない。やるもやらないも、自分次第。努力するのもサボるのも、自分次第。すべてが、「自分一人の世界」で完結する。そんな競技気質が肌に合った。 でも、やっぱり、チームプレーって、いいよな。 そんな風に気持ちが傾いたのは2019年のこと。まだ世界がコロナ禍に見舞われる前、日本列島を密な興奮で包み込んだラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が、きっかけだった。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン。その言葉、初耳だった。一人はみんなのために、みんなは一人のために。そのマインドセット、格好いいな。 ただ、進学した宮城第一高は元女子校。生徒の大半を女子が占めていて、ラグビー部はなかった。 やっぱり、オレって、チームプレーには縁がないんだな。 そんな風にあきらめて、再び陸上部へ。再び、自分一人の世界に浸った。 3年生になると部長を任された。ただ、無理に部を束ねようとしたわけじゃない。部員たちに伝えた。やるもやらないも、自分次第だよ、と。だって、すべてが「自分一人の世界」で完結するんだから。