国際社会から見た日本の表現の自由、静岡県立大で特別講義
静岡県立大学国際関係学部で、「国際社会から見た日本の表現の自由とメディアの問題」と題した特別講義が行われた。講義をしたのは、イギリス在住でエセックス大学人権センターフェローの藤田早苗氏。今春、国連特別報告者による表現の自由に関する調査が日本で行われニュースになったが、同調査は藤田氏らの働きかけで行われた経緯がある。講義には学生のほか一般の人も参加した。
特別報告者は国連人権理事会より任命され、様々な国で調査を行っている。政府や組織からは独立した立場にある専門家で、今春の日本での調査はカリフォルニア大学教授のデビッド・ケイ氏により行われた。藤田氏は、特定秘密保護法を英訳して国連に提出するなど、日本の人権や表現の自由に関する情報提供を国連に対して積極的に行っており、日本弁護士連合会なども国連に働きかけて日本での調査が実現した。 調査は当初、2015年12月に行われる予定だったが、政府の要請で今春まで延期になった経緯がある。デビッド・ケイ氏は約1週間、日本に滞在し、政府関係者やジャーナリスト、弁護士等への聞き取り調査を行った。離日前の会見では日本のメディアの独立性に対する懸念を表明している。
藤田氏は県立大学での講義で、イギリスのメディアと日本のメディアの違いを示すとともに、国連特別報告者、デビッド・ケイ氏による表現の自由に関する調査について経緯を説明した。藤田氏は、本来メディアの役割は市民の側に立って権力を監視することであるが、日本のメディアは中立に重きを置くと指摘。 欧米メディアは自ら紛争地帯に行って取材し報道するが、日本のマスコミは紛争地などには行かず、日本で紛争地の取材をするのはフリーのジャーナリストであると違いを述べた。そして、シリアへのフリージャーナリストの渡航を日本政府が制限したことが国際社会で問題視されていると指摘した。 また、「メディアの独立性について日本は国際社会の注目を浴びている」とし、NHKと安倍政権の関係性を報じたイギリスのエコノミストの記事や、総務大臣がテレビ局の停波を示唆したことについて欧米で複数の大手メディアが報じていることを紹介。日本のメディアは権力に萎縮し、選挙報道や改憲議論で十分な報道がなされていないのではないかとの見方を示した。 聴講した学生からは、「日本の報道の自由が侵されていることを知り衝撃を受けた」「日本は世界を敵に回したいのだろうか?」といった声が上がっていた。 国連特別報告者、デビッド・ケイ氏による日本の表現の自由に関する調査報告書は2017年6月に国連人権理事会に提出される。今回の調査に対しては、政府部内から実態とは異なっていると懸念の声が上がっているとの報道がなされているほか、一部メディアからは、デビッド・ケイ氏らを政府が監視しているとの報道がなされており、国連が問題視しているという。 (三好達也)