石破政権「103万円の壁」撤廃も〝増税画策〟に警戒 手取り増と逆行、厚生年金106万円の壁撤廃へ 浮上〝財源論〟の裏に財務省の影
もう一つのネガキャンが、「高所得者に恩恵」というものだ。年収210万円の人の減税額が所得税と住民税を合わせて約9万円なのに対し、年収500万円で約13万円、年収2300万円で約38万円という試算もある。加藤勝信財務相は「国と地方において減収が見込まれ、高所得者ほど減税の影響額が大きくなる傾向がある」と述べた。
■「手取り増」と逆行
しかし、「手取りの増加率」でみると年収210万円で4・3%、500万円で2・6%、2300万円で1・7%となっている。
田中氏は「金額でみれば高所得者層が有利にみえるが、所得との比率でみれば、低所得者の方が恩恵を受けることは明らかだ。『年収の壁』撤廃は国民民主党の看板政策で妥協はありえない。拒否すれば自民党も補正予算も通せず、政権の存立が危うくなるのでのまざるを得ないだろう」との見方を示す。
国民民主党はガソリン税の「トリガー条項」の凍結解除や消費税率の時限的な5%引き下げなども掲げている。
加藤財務相は前出の会見で、トリガー条項の凍結解除で国と地方の減収が生じるとして、「脱炭素に向けた潮流なども勘案しながら対応していく必要がある」と言及した。財務省側がクギを刺した形にもみえる。
田中氏は「財務省は一度得た財源を失いたくない。財務省や自民党内の緊縮派は、論点を『年収の壁』に持っていき、消費税やトリガー条項の議論から目をそらそうとする思惑もあるのかもしれない」と推測する。
こうしたなか、厚労省は、会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件(106万円以上)を撤廃する方向で最終調整に入った。年収要件をなくせば保険料負担が新たに生じ、手取り収入が減る人も出てくる。「手取りを増やす」政策とは逆行する動きだ。
また、税制をめぐっては、石破首相も防衛力強化の財源を確保する所得、法人、たばこの3税の増税の開始時期について、年末の税制改正の議論で決着させる考えを示した。石破首相は金融所得課税の強化に言及し、その後撤回する一幕もあった。来年夏には参院選も控えるが、前出の田中氏は「現在は増税を言い出すのは難しいだろうが、7兆6000億円を取り戻しに動くため、将来的に『増税・負担増』路線になるだろう。防衛増税の開始はもちろん、石破政権が続けば、首相が掲げる防災省設置構想に関連して、インフラ整備のための『防災増税』を掲げるかもしれない」と警鐘を鳴らした。