土井裕泰×野木亜紀子が“オリジナル”にこだわった理由とは? 『スロウトレイン』創作秘話
ホームドラマを選んだ理由
――様々なジャンルがある中で、今回ホームドラマを制作された理由を教えてください。 土井:野木さんは『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)という大作が控えていて、お忙しいことはわかっていました。やるとなると徹底的に取材や下調べをされる人だと知っていたので、社会派ドラマのように負荷が大きいものにはしたくなくて。僕はテレ東の『コタキ兄弟と四苦八苦』が大好きだったので、そのテイストで家族やきょうだいの話をやりながら、そこにちゃんと「社会」や今の人たちの「リアルな悩み」「多様性」といったところが透けて見えるような話ができたらいいなと思いました。 ――ドラマは鎌倉、釜山が舞台になっています。 土井:たまたま2022年に電車に乗っていたときに、「小津安二郎没後60年」という企画展のポスターを見て、“この何十年で変わったもの”を自然に比較できたら面白いなと思ったんです。そこで、小津監督の映画で描かれていたような家族観、親子観みたいなものと対比になるようなかたちで、同じ鎌倉を舞台に今生きている姉弟を描きたいなと。韓国に関しては2002年に『フレンズ』(TBS系)という日韓共同制作ドラマを制作して、当時はまだ(韓国ドラマブームの火付け役となった)『冬のソナタ』の前だったので、お互いに理解し合えずに大変なことがいっぱいあったんです。でも、気がついたら日本の若い子たちがみんな韓国の文化やエンタメに憧れるような状況になっていて、「この20年で何があったのだろう」と。今回、若い日本人と韓国人の繋がりを描くことで、そんな意識の変化も自然に描けるかなと思いました。ただ、野木さんから「鎌倉と韓国の共通点がほしい」と言われまして(笑)。そこでリサーチしたら、釜山の電車を見つけて。 野木:潮の仕事をまだ決めていなくて、「江ノ電にしようよ」と言っていたこともあり、ちょうどいいなと。 土井:そこから、“電車”を通じた物語にしよう、ということになりました。野木さんが一番最初に書いたプロットには「乗り換え列車」という仮のタイトルがついていました。最初はみな同じレールにのせられて、そこからはみだすことに不安があるけれど、人はいつか電車をのりかえるように自分だけのレール=人生の上を走ってゆく……というイメージから、『スロウトレイン』というタイトルが出てきました。