「衣装は自分をどう表現するか」 ケイシー・ストーム氏
過去には、マイケル・ジャクソンのミュージックビデオの衣装や、数々のCMの衣装を担当するなど、さまざまな場で活躍しているケイシー・ストーム氏。今回は、近未来を描いた『her/世界でひとつの彼女』(6月28日公開)で衣装を担当した。主人公の男性セオドアが人工知能と恋に落ちるストーリーは、きわめて日常的なシーンを描いており派手さは少ない。その中で『衣装』の果たす役割、こだわりについて話を聞いた。
今回の作品で描かれているのは近未来。遠い未来でもなければ、過去でもない。数年後に訪れるであろう、未来を予想しての衣装は、かなり難易度は高いという。「大昔を描いた作品の衣装を担当したことがあるが、これは難しくなかった。なぜなら、資料をコピーするだけでいいから。遠い未来も自由に描ける。でも、少し近い未来はとても難しい」と話す。 作品のイメージに合わせ、主人公の感情を軸として、表現していく。シャツを1つとっても、現在のファッションをベースにしながら、少しの違いを大げさでなく、見る人に違和感が出ないよう調整していく。 ちなみに、ハリウッドの名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』が描いた30年後の世界は2015年10月。来年の話になる。そこで描かれたファッションは、スーツに2本のネクタイがしめられていたり、ジーンズのポケットが外に出されていたり、という“奇抜”なもの。「(同作品の衣装を担当した)彼らは考えが浅かったのかもしれないね(笑)」と、ストーム氏は冗談めかしに話したが、それだけ、『近未来』には観客を納得させられる根拠、リアリティが求められる。 『バック・トゥ・ザ・フィーチャー2』では、ネクタイは2本着けられていたが、対照的に『her』ではネクタイはしめていない。「描かれた未来は、人は会社に通う生活が変わり、自宅などリモートで働く。なので、堅苦しいネクタイは不要になる。そういう合理的な進化も考える」と、そのスタイル1つ1つに根拠がある。 『近未来』といっても作品のイメージによって、醸し出される雰囲気は異なる。「一般的に『近未来』というとシルバーとか冷たい色のイメージが強いと思う。でも、今回は、色のルールとして、未来の人がどういう色を好むかを追求していって、居心地が良くて温かい、オレンジ、黄色、赤といった色を多く使っていこうと決めたんだ」と振り返る。その効果もあり、セオドアを中心に登場する人の雰囲気がどこか優しさを感じられる。