「権力暴走の危うさ理解を」政治家への税務調査、期待しすぎない方がいい? 元熊本国税局長の亜細亜大・肥後治樹教授に聞く【裏金国会を問う】
―使い道を調べるために税務調査をするべきではないでしょうか。 「国税当局の人員にも限りがあり、全てを調査するのは現実的ではないと思います。もちろん、議員も税務調査の対象外ではありません。過去の税務申告分とも照らし合わせて、国税庁が調査の要否を検討するのだと思います。ただ今回のケースでは、脱税事件として問える帳簿の改ざんなどの悪質な行為は明らかになっていません。仮に裏金が議員個人の所得と判断され、その分の申告がなかったとしても、まずは修正申告を促す対応にとどまるのではないでしょうか」 ―膨大な経理書類を集めて毎年税務申告をしている人もたくさんいます。納得いかないという意見も多いと思います。 「自民党への不満が高まる中、議員に課税すべきだという声が上がるのは理解できます。ただ悪質で大口の税逃れは他にもあり、議員を対象とするパフォーマンス的な税務調査はあまり生産的ではありません。議員の後ろには、その議員を選んだ何万人という国民がいます。行政が世論によって恣意的に調査をすることができてしまえば、気に入らない相手に社会的なダメージを負わせることが可能になってしまいます。権力が暴走する危うさを国民が理解する必要もあるかと思います」
―説明責任を果たさず、十分な処分も受けないまま幕引きを図ろうとする政治家に対してどう怒りをぶつけたらいいのでしょうか。「過度に懲悪的な役割を国税に期待するのはあまり意味のないことだと思います。国税当局はあくまで提出された申告書に基づいて、悪質な税逃れがあれば調査をして課税をする組織です。『悪い政治家を許さない』という民意は選挙を通して示すべきではないでしょうか」 ひご・はるき 1959年鹿児島市生まれ。税務大学校副校長、熊本国税局長などを経て現職。 × × × 安倍派の事務総長を務めた松野博一前官房長官は3月の衆院政治倫理審査会で、還流金を「国会議員や有識者との会合の費用に充てた」と説明したが、「参加者のプライバシーの問題もある」との理由で会合の相手は明らかにしなかった。一方、塩谷立元文部科学相は野党議員に納税するよう迫られたが「しっかり政治活動に使用している。納税するつもりはない」と拒否。岸田文雄首相も国会で「個人が受領した事実は確認していない」と答弁し、納税義務は生じないとの見解を示している。