『きのう何食べた?』西島秀俊演じるシロさんの幸せに満ちた涙 “元カレ”及川光博の登場も
人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)。season2の第5話では、西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)が内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)との日々を改めて感じ入る。第5話は登場人物たちの表情が印象的な回となった。 【写真】シロさん(西島秀俊)の元カレ・ノブさん(及川光博) ケンジにせがまれ、シロさんは以前一緒に住んでいた元カレ・ノブさん(及川光博)との出来事を打ち明ける。ノブさんは、ルックスこそシロさんの好みドンピシャなのだが、思いやりに欠ける。洗濯機の水漏れに悪戦苦闘するシロさんを労りもせず、ノブさんはわがままを言うばかりで、さすがのシロさんもいらだち、顔を歪ませる。 「ドンピシャで俺の好みのタイプだからって俺がなんでも許すと思ったら大間違いだぞ」とシロさんは文句を言いに立ち上がるのだが、ノブさんの前に現れたシロさんは「冷蔵庫にミルク寒天と黒蜜、作ってあるから食べなよ」と甘い笑顔を見せた。ノブさんが好みのタイプゆえ、またノブさんが恋人に強く出るタイプゆえに、シロさんは怒りをぶつけるどころかノブさんの言動を許してしまう。ケンジと一緒にいる時とは様子があまりに異なるので思わず笑ってしまうが、それだけノブさんに惚れ込んでいたことが十二分に伝わってくる。シロさんの9年前の思い出話に嫉妬するケンジを、「ほんと、ケンジはタイプじゃないんだけどな」となんとも言えない面持ちで見つめる姿も面白い。 ケンジはシロさんのタイプではない。つんけんしたノブさんと比べると、ケンジの人物像はとても晴れやかで正反対に映る。喜怒哀楽がはっきりしているケンジは、喜ぶ時は子どものように無邪気にはしゃぐ。シロさんと過ごすクリスマスの日取りが決まり、「25日、決定!」と声を弾ませる様子や、シロさんにリクエストした煮込み料理を目にしたケンジの喜びようは愛おしい。 シロさんを気遣う様子がなかったノブさんと比べ、ケンジはごく当たり前のようにシロさんを気遣う。印象的なのは、自分のためを思ってクリスマスディナーを用意してくれるシロさんを思うあまり、恒例メニューを変えるという提案を自分から言い出せなかった姿だ。言い出すことができず、しんみりした顔で力なく皿を洗う姿を見ると、深刻に考えすぎている気もするが、相手を傷つけない切り出し方を考えているのだと思うと、この様もまた愛おしい。 そして、ケンジはタイプではないと言うシロさんの顔つきにも、なんだかんだ言ってケンジを深く愛するさまが見て取れる。いつもと同じカットケーキを買った後、バゲットを見て思いついたようにシロさんは微笑んだ。体形を気にするケンジを思い、クリスマスメニューを変更したシロさんだが、ケンジの大好物である明太子サワークリームディップは変わらず作ることに決めたのだ。「どうせバゲット食うなら、やっぱそれないとお前、物足りないだろうと思ってさ」とシロさんは言う。特別な響きがある台詞ではないかもしれないが、買い物中にシロさんが見せる表情やこの台詞などを通じて、シロさんにとってケンジと過ごす日々がかけがいのないものであることが感じられるし、シロさんの言動からケンジを思う気持ちが溢れているのがわかる。 クリスマスの夜に、幸せな時間を過ごしたシロさんとケンジ。年末のある日、仕事から帰ってきたシロさんは洗濯機の横にあるホースに気づく。また洗濯機が水漏れしても床が水浸しにならないように、というケンジの気遣いだった。シロさんが夕食に使おうとした食材を使ってしまったケンジは、買ってくると言って家を飛び出す。ケンジを見送るシロさんは言葉が出なかった。脳裏に浮かんでいたのはノブさんとの苦い思い出だ。 ノブさんはシロさんが夕食に使う予定だった食材を勝手に使ったことを謝りもせず、開き直る。「あと俺、もう腹一杯だから飯いらねえよ」と言い捨てるノブさんを見つめるシロさんの横顔と、現在のシロさんの横顔が重なり合った。9年前のあの時、ノブさんの言葉にシロさんが本当はどんなことを思ったのか、それはわからない。けれど、現在のシロさんが1人涙ぐむ姿から、ノブさんの言葉にシロさんが深く傷ついていたこと、そして今はケンジと過ごす日々に心の底から幸せを感じていることが同時に伝わってきた。思わぬ涙に「あれ?」と笑うシロさんだが、辺りを見回し、改めてケンジの気遣いを感じると、心の中で呟いた。 「そっか……俺、今、幸せなんだ」 シロさんの涙は幸せに満ちている。改めて「あいつ、全然タイプじゃないんだけどな」と思うシロさんだが、そんなケンジのおかげでシロさんの苦い思い出も少しずつ変化していくことだろう。「鶏もも、2枚使ってやるか」という言葉は、シロさんらしい愛情の表れだ。ケンジの帰りを待つ幸せな横顔に胸がいっぱいになる幕引きとなった。
片山香帆