三宅健、SKY-HI×Nissy、YOASOBI、HoneyWorks……異色の“アイドル”題材楽曲はなぜ人気?
アイドルのリアルを描写するYOASOBIの「アイドル」
■アイドルのリアルを描写するYOASOBIの「アイドル」 上記2曲が本人が歌うアイドル観であったのに対し、第三者から見た「アイドル」の姿はどう描かれているだろうか。アニメ『推しの子』のオープニング曲としてリリースされ、瞬く間に世界のチャートを席巻したYOASOBI「アイドル」は、アイドルグループ・B小町のメンバーであり、伝説的なアイドルとされる作中の重要人物・星野アイを通して、アイドルの光と影を映し出した作品だ。 アイが“完璧で究極のアイドル”と信じ崇められる理由の一つは、彼女が人生をかけて嘘を隠し通したからである。愛を知らない彼女に“ウソでも愛してると言っていいんだ”と気づかせ、アイドルになる決断をさせたのは、所属プロダクション社長の斉藤壱護がスカウト時にアイに伝えた「ウソでいいんだよ。むしろ客は綺麗なウソを求めてる。ウソをつけるのも才能だ」という言葉だ。人に愛されること、人を愛することを知らないながらも、“もしかしたら本当に誰かを愛せる日が来るかもしれない”と嘘でも愛を囁き続け、結果としてトップアイドルに上り詰めたこと。さらには、アイドルとしてはタブーとされる恋愛をして二児の母となったことを世間に隠し続けていたこと。こうした、表向きは完璧なアイのアイドル像に魅了されていた世間は、見事に彼女に騙されていたとも言えるかもしれない。 現実にも、アイドルはよく「夢を見せる職業」であると言われる。ファンは理想の人間像や恋人像を合法的に“推し”に重ね、時に恋愛感情のようなものを持ったり、成長過程を親のように見守ったりと、思い思いの方法で “推し活”を楽しむ。時間やお金はおろか、人生をまるごと“推し”に捧げている人も珍しくはないほど、高い依存性がある世界だ。曲中でも〈そう嘘はとびきりの愛だ〉と歌われているように、アイドルのプライベートや本音は知らない方がお互いにとって幸せかもしれないが、その反面、最近ではビハインド映像などオフショットを収めたコンテンツも多く、人間味あふれる素顔を垣間見ることで、ステージでの完璧な姿とのギャップがファンを一層惹きつけているのも明らかだ。完璧に見えながらどこか消えてしまいそうな儚さや、届かない存在のはずなのにすぐ近くに感じさせて沼に落とす、甘く危険な中毒性。その裏に潜む影にも気づかせないほどに眩い光を放つアイドルという仕事は、非常に奥深い。 ■他者評価に悩みながらも立ち向かう力強さを描写した「誇り高きアイドル」 2021年にリリースされたHoneyWorks feat.Kotohaの「誇り高きアイドル」は、アイドル自身が受ける他者からの評価と、それに立ち向かう力強さを歌った楽曲だ。 本楽曲では、〈可愛く見えてますか?〉〈うまく歌えてますか?〉と、アイドルとしての自分がファンからどう見えているかを問いかける冒頭の歌詞から一転、曲が進むにつれて笑顔の裏に秘めた心の叫びがあらわになっていく。夢を与えて輝くアイドルという職業に誇りを持ち、アイドルであることに胸を張る中でも、〈バカにする奴は嫌いだ/見下されるのも嫌いだ〉〈“アイドルなんか”という言葉を見てもいないくせに言うな〉と歌うフレーズは、「アイドル」というだけで冷ややかな視線を向ける世間や、勝手な固定観念で偏った見方をする人々への強い反論を含む、この曲の核となる部分だ。 これまでアイドルとアーティストの区別が議論されてきた日本のダンス&ボーカル領域においては、近年、ボーイズグループが台頭したことで、いい意味でその境界が曖昧になりつつある。また、世界的に見ても、従来の日本のアイドルに見られるような「成長型」ではなく、韓国アイドルに多い「完成型」、つまりはルックス・生歌でも勝負できる歌唱力・ダンサーに劣らないダンススキル・その他(作詞作曲や振付など)の才能を総合的に兼ね備えた実力派グループが輩出され続けている。嗜好は人それぞれで強制するものではないが、一度触れてみるのも世界を広げる好機になるかもしれない。 時に向かい風に吹かれながらもファンに支えられ、ファンの人生を照らす光として輝くアイドルたち。求められる理想像を体現する彼ら彼女らは、どれだけ人間離れしたものを持っていようとも、我々と同じ一人の人間だ。多忙な日々を過ごしながらも常にファンに大きな愛情を向け、夢を与え続けてくれるその存在に敬意を表するとともに、先入観なく楽曲や人間性を含めた魅力がより多くの人の目に留まり、広く愛されることを願っている。 ※1:https://www.instagram.com/kenmiyake_idol?igsh=MXU1cXNub2k3MnZrNA==
風間珠妃