箱根駅伝にまた「山の神」が誕生するのか?
箱根駅伝は“山”があるからドラマチックだ。 特に往路のアンカーである5区は標高約40mの小田原中継所から国道1号線最高地点(標高874m)まで一気に駆け上がる険しい道のり。東海道最大の難所を激走するランナーたちは見る者を魅了する。第82回大会(06年)から第93回大会までは、5区が最長区間だったこともあり、順大・今井正人、東洋大・柏原竜二、青学大・神野大地の3名が「山の神」と呼ばれるような大活躍を演じた。前々回から往路の小田原中継所が元の位置に移動。距離は23.2kmから20.8kmに短縮されたものの、5区が重要区間であることは変わらない。 2019年1月2日に「山の神」は現れるのか。12月29日に発表された区間エントリーを見て探っていきたい。 最も「山の神」に近い位置にいるのは法大の5区に登録された青木涼真(3年)だろう。前回は14位でスタートを切り、怒涛の9人抜き。区間2位の早大・安井雄一(現・トヨタ自動車)を30秒以上も引き離して区間賞を獲得している。コースリニューアル2年目ということもあり、1時間11分44秒というタイムは区間記録を1分02秒も上回った。 他の“クライマー”と異なり、青木は上りに滅法強いタイプではない。坪田智夫駅伝監督が青木を5区に抜擢した理由は、「レース戦略」の巧みさにある。「レースは外したことがないので、どんな展開でもまとめる力はあるのかなと自分でも思います」と青木本人も話すほどだ。 青木は何事にも戦略的に臨んできた。出身は埼玉県有数の進学校である春日部高校。5000mや駅伝で全国大会に出場するのは難しいと判断した青木は、強豪大学にスポーツ推薦で入るために3000m障害を開始した。そして、狙い通りに3年時のインターハイ3000m障害で8位に食い込み、法大の生命科学部環境応用化学科にスポーツ推薦で入学した。 理系学部と競技を両立できる大学は多くなく、青木は法大の中でも珍しい存在だ。多摩キャンパス近くにある陸上部の寮から生命科学部のある小金井キャンパスは1時間半ほど。授業の関係で、ポイント練習をひとりで行うことも少なくないが、確実に力をつけてきた。1年時は8区を走って、区間9位。法大初の理系学部所属の箱根ランナーになると、前回は5区で区間新記録。過去2回の箱根では“新たな扉”を開けてきた。 今季は5000mと3000m障害で自己ベストを更新するなど、走力をさらにアップさせている。関東インカレでは3000m障害を連覇して、8分42秒11の法大記録も樹立した。 「3000m障害と箱根5区の共通点はさほどありませんが、走りの柔軟性という意味では近いかもしれません。サンショーは障害を跳びますし、山も勾配を見て走りを変えないといけませんから」と青木。今回は「山の神」になれるのか注目を集めているが、「1時間10分」という目標タイムを掲げている。そして前回から1分44秒を短縮するための計算はすでにできているようだ。 「前回は自信がなかったので、序盤を慎重に入りました。前半からいいリズムで攻めていき、後半も前回より落ち込むことなくいければ、終盤の下りと平地は伸びてくる。前回の経験があるので、そういう部分ではうまく走れるのかなと思います。チームは5位以内を目標にしているので、往路の最後で自分ができる最高の仕事をしたいです」 現在とほぼ同じ距離で争われた第76~81回大会(00~05年)では、順大・今井正人が1時間9分12秒をマーク。歴代2位は、東海大・中井祥太の1時間11分29秒になる。タイム的にいうと、1時間10分を切ると「山の神」と呼ばれるほどの強烈なインパクトを残すことができるだろう。青木は“神の領域”にどこまで近づけるのか。