大地震と富士山の噴火、重なったらどうなる? 災害医療のエキスパートが語る「相当厳しい現実」 11月に「最悪」を想定して訓練
医療従事者らがこの秋、複合災害を想定した訓練を企画している。地震が起きてすぐに富士山も噴火をするという「最悪の事態」だ。地震がなくても、富士山が噴火すれば広範囲に大きな被害が出る。企画した災害医療のエキスパートで神奈川県理事の医師、阿南英明さんは「相当厳しい現実に直面することになる」ときっぱり。「太陽の光が遮られ、視界がなくなる。車は使えない。歩いても目や口から灰が入る。病院にいけばなんとかなるというイメージがあるだろうが、その前提も崩れる」。だからこそ訓練が必要だと阿南さんは言う。そこには東日本大震災や新型コロナウイルス感染症への対応に関わってきた経験があった。(共同通信=村川実由紀) ▽降り積もる灰 6月27日、横浜市の神奈川県庁に医療関係者らおよそ70人が集まった。11月に実施する訓練の準備だ。会議室の端にあるホワイトボードには神奈川県の地図が貼られている。それを眺めていた阿南さんは突然、赤いペンで複数の地点に丸印を付け始めた。
「地震が起こった時、地域ごとにどこの病院に拠点を置くか、考えている」 人口と病院の場所、アクセス、規模、建物、水道や電気といったインフラ、一口に病院といっても同じではない。災害が起こればけが人や健康上の問題を抱えた人は近くの病院に集まってくるだろう。でも、その病院が安全な場所ではなくなっているかもしれない。 訓練で想定するのは、震度7の地域もある関東大震災型の地震と、続いて起きる富士山の噴火による広範囲の降灰だ。地震で建物が壊れ、電気が使えず、医療機器が動かせなくなり、診療を続けられなくなる病院が出ることになる。 地震だけなら物流が徐々に回復して復旧を目指せる。ただ噴火が起きればそうした見通しがつかなくなる。「神奈川県では他県とは違い、火砕流よりも降灰の影響が圧倒的に多いはずだ」。東京や千葉でも降灰の被害は出るかもしれない。 灰が積もれば、車も公共交通機関もヘリコプターも使えなくなる。そうなった場合、それぞれの病院は耐えてしのぐ必要がある。物資の補給がなく、患者を他の医療機関に搬送できない。そんな環境下を何日も診療を続けることを考えると、手厚い備えが必要になる。「その現実を受け止めないと起こってしまった時の対応はできない。今はその準備ができていない病院が多すぎる」