アインシュタインが「特殊相対性理論」に感じていた不満とは!一般相対性理論はなぜ生まれたのか
曲がった空間としての「時空」を記述するには
さて、時間と空間を合わせたものを「時空」とよびますが、特殊相対性理論での時空は「ミンコフスキー時空」とよばれます。 これは、少し数学的に難解なものですが、比較的単純な構造をしています。とくに、互いに平行な直線は、交わることなく永久に平行なままなのです。この点で、ミンコフスキー時空は、ユークリッド空間の自然な拡張になっています。 一方、一般相対性理論における時空の幾何構造は、リーマン幾何学とよばれる幾何学によって記述されます。そのため特殊相対性理論の場合に比べてはるかに複雑なものになります。 互いに平行な2本の直線が、必ずしも存在しないのです。この複雑な幾何構造(あちこちが曲がっていること)が、アインシュタインの理論における重力の本質なのです。 この曲がった幾何構造のなかを、なるべくまっすぐに進もうとする様子が、質量をもつ物体の重力場中における運動なのです。ちなみに、より正確な数学的な言い方をすれば、空間の曲がりを記述する理論がリーマン幾何学です。また、時空の曲がりを記述する理論は擬リーマン幾何学とよびます。
重力と曲がった空間の幾何学
もう少し考えてみましょう。重力とこの幾何学との間には、どんな関係があるのでしょうか。先ほどのまっすぐな道路を時速100キロメートルで進む2台の自動車を思い出してください。 この2本の道路は平行だとしましょう。2台の自動車は等速で走っています。平行な道路ですから、いつまで経っても、2台の自動車の間の相対的な位置関係は変化しません。つまり、1台目の自動車に乗っている人から見れば、2台目の自動車は静止しています(地面に対しては運動していますが)。2台目の自動車の立場でも同様です。 しかし、地球上の2本の道路はずっと平行なままではあり得ません。地球が球形をしているためです。そのため、2台の自動車の位置関係は変化します。1台目の自動車に乗っている人から見れば、2台目の自動車の速度は変化しています。つまり、1台目の自動車に対して、2台目の自動車は相対的に加速度運動をしていることになります。 この例のように、曲がっていることが、物体間の相対的な加速度運動の原因となります さらに、幾何的な曲がりは、万有引力として相応(ふさわ)しい性質を持っています。 たとえば、電磁気的な力であるクーロン力は、電荷という物体の性質に依存するため、電荷を持たない物体には働きません。 それに対して、幾何的な曲がりはどの物体に対しても同じです。そのため、万物に働く重力の原因としては、幾何的な曲がりが適しています。幾何的な曲がりはどの物体に対しても共通だからです。アインシュタインは、万有引力が空間の曲がりによるものだと考えたのです。 ---------- ----------
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)