【漫画】「警察や保健所に頼んでも埒があかん」日本で最高の精神科治療が受けられるのは、刑事責任能力のない人たちが収容される施設だという皮肉
子供を殺してくださいという親たち#7
日本で初めて説得による精神障害者の移送サービスを行う「トキワ精神保健事務所」を始めた押川剛氏。近年、「押川案件」と呼ばれるような事件が頻発するなか、押川氏はこうした社会状況をどう捉えているのだろうか。(全9回の7回目) 【漫画】自分の保身に走って治療を中断する高名なバカ医者
日本で最高の精神科治療を受けられる人は…
――近年、「押川案件」とも言われるような、親族間の殺人事件がますます目立っているように感じられます。 昔は、地域にコミュニティがあり、いろんな意味で孤立せずに済むような状況がありました。でも、いまは「個人の意思を尊重」ということで、すべての問題が個人に委ねられるようになっています。国策としてすべての分野で、地域移行、アウトリーチに舵を切っているんですね。 そうなると、何か問題があったときに、親か子供の家族のどちらかが責任をとらなきゃいけなくて、それが最悪のケースだと殺し合いにまで発展するようになってしまっているように思います。要するに、社会から孤立しているんですね。 ――未然に防ぐ方法はないのでしょうか。 彼らに手が差し伸べられるのは、事件化して社会に知られてからです。つまり、以前ならば、最終手段だと思っていたところが、スタートになってしまっているんですね。日本で最高の精神科治療が受けられるのは、刑事責任能力のない人たちが収容される医療観察病棟になりますが、その施設でしか日本で最高の治療が受けられないというのは、とても皮肉だと思います。 児童虐待に関しても同じで、ニュース沙汰になったから助かった、というぐらい、明るみに出ていない虐待はたくさんあります。虐待を受けている当事者が「保護してほしい」と訴えても、自治体によっては子供より保護者の意向が優先されるので、保護してもらえていないこともあるんです。
1人で100件を受け持つ児童相談所の人手不足
――児童養護施設を舞台にした新作漫画『それでも、親を愛する子供たち』も始まりましたが、その辺りのことも描かれていくのでしょうか。 そうですね。いまは児童養護施設は大舎制から、住宅地の空き家を借りて、少数の子供を育てる方針になっています。「家庭的養護」という言い方をしていますが、要は小規模化です。 そうなると地域によっては反対の声があがってくるわけですよ。ある地域では「受け入れるのはいいとしても、受け入れた子供同士で子供ができたらどうすんだ」「一番止められないことはそういうことだろう」と指摘をした町内のご老人がいて、私も「確かに」と思ったんです。近所の同世代の子たちとも交流が生まれますからね。 でも、運営側は「できたときに考えればいいんじゃないですか」と言うんです。そのおじいさんの意見があまりにも芯を食ってたもんで、私も地域移行の本質って、もしかして「家族にさせる」という解決方法なんじゃないかと思っちゃいました。 話は少しそれましたが、本気で問題を抱えているところは、家族で責任をとるしかないのが現状です。そうならないためにも、『「子供を殺してください」という親たち』で現状を伝えてきたつもりですが、まあ国の方針には勝てないですね。 ――やはり、そこは変えられないものですか。 そうですね。ジャニーズや宝塚にも当てはまるのですが、社会が成熟していくとすべてが小規模化していくので、たくさんの子供たちを集めて養成する形態は無理なんだと思います。なぜ、かつては不平不満が明るみにならなかったのかといえば、大きくやれていたからだと思うんですよね。個人の意見を聞くということは、どうしたって小規模にならざるを得ない。そして皮肉にも小規模になればなるほど、携わる人がどんどんいなくなっていきます。 ――人手不足ですか。 はい。一番の問題は人が集まらないことです。児童相談所でも、1人で70~100件も受け持っています。 精神科病院もそうです。難しい患者を受け入れられる病院は、全国でも数えるぐらいしかなくなってしまいました。明らかにメンタルが影響して問題を起こしている家族がいたとしても、携わる人、対応してくれる施設が足りなくて、介入できないわけです。