映画・ドラマを“倍速視聴”する風潮に…ライター稲田豊史「作品が描いている問題に対して思考する時間が減ってしまう」
山崎怜奈(れなち)がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「山崎怜奈の誰かに話したかったこと。(ダレハナ)」(毎週月曜~木曜13:00~14:55)。1月3日(水)の放送は、編集者・ライターの稲田豊史(いなだ・とよし)さんをリモートゲストに迎えてお送りしました。
◆“倍速視聴”が当たり前の時代に物申す
稲田さんの著書「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」(光文社新書)が「新書大賞2023」で第2位に。本作は、映画やドラマを倍速視聴する風潮からエンタメのあり方について言及した本で、「ここ2年ぐらいで(倍速視聴が)普通になっていきましたが、(その背景として)やはり作品数が多すぎて“早くたくさん消費できれば得”みたいな考え方になっている」と指摘。さらに、時間的・経済的な“余裕のなさ”を挙げ、「“無駄な時間を使って、つまらない作品を観たくない”という気持ちが、昔に比べてすごく先走っている」と話します。 そのうえで、「倍速視聴のなにがいけないのかって、ストーリーは早く追えるけど、その作品が描いている問題に対して思考する時間が減ってしまう。それが一番の損失だと思います。だから、ぜひ倍速視聴せずに観てもらいたいですね」と訴えます。
◆2023年のエンタメ業界を分析
続いて2023年のエンタメ業界について伺うと、稲田さんは大きな変化が2つあったと言います。1つは、“日本発”の作品が世界で注目を集めたこと。Netflixで「ONE PIECE」が海外で実写ドラマ化されて大きな反響を呼んだほか、宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」や「ゴジラ-1.0」は、アメリカでも異例の大ヒットとなりました。この状況に、稲田さんは「きっかけは“蓄積”だと思います。もともと人気だった作品をじっくり育成して(2023年に)機が熟した感じですね」と分析します。 もう1つは、ハリウッドで起こった全米脚本家組合のストライキ。そのなかの重要な論点として“AI規制”がありましたが、「要はAIでも効率的に過去のデータを集めて、安く、早く、感動できる物語を作れますし、物語制作にもコスパを求めるのが世界的風潮になっているんですよね。それに、人間も脚本を書くときは過去の名作を参照して作っているので、“実はやっていることは(AIと)一緒じゃないか”と言えてしまうのがつらいところ。とはいえ、作り手側は反抗することが大事ですし、あとはAIが考えつかない物語を作ってほしいですね」と語ります。