ドラマ「三体」がついにNetflixで配信開始──原作未読派も既読派も、より楽しめるヒントを指南!
ドラマシリーズ「三体」がNetflixで配信開始された。大人気SF小説をベースにした壮大な世界を「ゲーム・オブ・スローンズ」の制作陣がVFXを駆使し見事に描き出した。あらすじや見どころに加え、小説とNetflix版の違いなどを解説。 【写真を見る】ドラマ「三体」の壮大な世界観をチェック
アジアSF小説の火付け役
「三体」は中国のSF作家、劉慈欣(りゅう じきん/リウ・ツーシン)によるSF小説。中国では2008年に、日本では2019年に一巻目となる「三体」が発売され、その後「三体Ⅱ 黒暗森林(上/下)」、「三体Ⅲ 死神永生(上/下)」、「三体X 観想之宙」の全6巻と前日譚「三体0 球状閃電」からなる長編シリーズだ。世界で累計2,900万部発行され、日本でも計37万部以上が発行され、ブームとなりつつあるアジアSF小説の火付け役となった。 作者の劉慈欣は2015年に、アジア人作家で初めて第73回ヒューゴー賞の長編小説部門を受賞し、バラク・オバマ元アメリカ大統領や、ジェームズ・キャメロン、ゲームデザイナーの)小島秀夫などが愛読者であることを明かしている。そんな世界中でヒットしたSF小説が、満を持して中国の配信プラットフォームであるテンセント(日本ではwowowで配信)とNetflixで映像化された。本稿で紹介するのはそのNetflix版。小説の中で繰り広げられる目に見えない異星人との交流が一体どのように描かれるのか、(筆者を含めた)小説ファンたちは期待に胸を膨らませて配信を待ちわびていた。 ■Netflix版「三体」のあらすじ 文化大革命で物理学教授の父親を殺された天体物理学者の葉文潔(イエ・ウェンジエ)。体制に恨みをもっていた彼女は、異星人を探すために作られた極秘基地に入り込むことに成功し、基地にある巨大なアンテナを用い、地球からのメッセージを密かに宇宙に送信する。このメッセージを受け取ったのが三体世界に生きる異星人・三体人だった。 三体人たちの世界は、3つの恒星からなるため引力が複雑に作用し、地球のように安定した動きではなく乱れた軌道を取る。ゆえ、恒星が近づきすぎると数千度に、離れすぎると氷点下になり、そのたびに文明は滅びてしまう。常にリスクに晒されている三体人は、三体世界を脱出し地球を侵略することに決める。 時を経て2024年のイギリスでは、科学者が次々と自殺するという事件が起きていた。オックスフォード大学で物理学を学んだ仲良し5人組であるジン、オギー、ソール、ジャック、ウィルの恩師も、同じように自殺してしまう。 不審に思ったジンは、真相を探ろうと恩師の母親の元を訪ねると、彼女は死の直前VRゴーグルのような機器を身につけゲームに興じていたという。ゴーグルを譲り受けたジンは試しに被ってみると、三体世界へと誘われる。またナノテクノロジーの科学者でスタートアップ企業を経営しているオギーは、目を開くとまるで目の前にスクリーンがあるかのようにカウントダウンの数字が表示されるようになる。それが死へのカウントダウンであることは明白だった。またある夜には、空に輝く星の光が全て消えまた光るという不可解な現象も起きていた。これらを起こしていたのは三体人が送り込んだ智子と呼ばれる陽子だったのだ。三体人は地球を侵略するために自らの世界を出発し、450年後に到達することが判明する。果たして地球を救うことができるのか。国家と物理学者たちは世界中の知識をフル活用し解決策を模索するのだった。 ■原作とNetflix版の違い(ネタバレ注意!) 小説ファンが本作を観ると、少し混乱するかもしれない。その混乱も楽しみたいというコアなファンはこの先は読まないほうがいいだろう。ただ、小説の内容をすべて覚えているわけではないと思うので、先に小説との違いを知っておくと、すんなりNetflix版に入り込めると思う。もちろん原作を読んでいなくても楽しめる作品だ。いやむしろ、原作を読んでいない方が、違和感なく楽しめるかもしれない。また物理学の説明や三体問題などが、小説に比べかなり分かりやすくなっているのも映像作品ならではの特徴だ。 大きな変更点の一つ目は、舞台が中国からイギリスのオックスフォードに変更されていることだ。つまり主人公たちも中国人から多様な人種に変わっている。ナノテク素材の研究者である汪淼(ワン・ミャオ)は、男性から女性のキャラクター、オギーに変わり、原作では異なる時代に生きていた汪淼、羅輯(ルオ・ジー)、程心(チェン・シン)が、Netflix版では同時代を生きるオックスフォードの仲間のオギー、ソール、ジンとして登場する。原作では、何度も付録の登場人物表を見返し、読み進めなければならなかったが、Netflix版では物語に一体感が生まれすんなりと見続けることが出来る上に、原作に比べ話の展開がとても早く、テンポ良く進んでいくのも気持ちいい。 ■「ゲーム・オブ・スローンズ」のように伝説的ドラマとなるか 原作ファンたちがNetflix版に期待を高めていたもう一つの理由はその制作陣だ。Netflix版「三体」を手掛けたのは、大ヒットドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のデヴィッド・ベニオフとD.B.ワイスの二人に加え、ドラマ「トゥルーブラッド」などで知られるアレクサンダー・ウー。ベニオフとワイスは「ゲーム・オブ・スローンズ」では、ドラゴンと人間が共生するファンタジーの世界を描き出したが、本作ではVFXを駆使し、バーチャル世界や宇宙も描く。劉慈欣が創造した壮大なヴィジュアルを実写化していくという作業は困難を極めたと思うが、少なくとも原作を読んだ筆者は、自分の頭の中で描いていた風景と違和感を感じることなく実写版を楽しむことができた。 今回配信が開始されたのはエピソード1~8の全8話。当然、小説「三体」シリーズの一部分だが、今のところ次シーズンが制作されるかどうかは発表されていない。だが、「DUNE/デューン 砂の惑星」のパート1同様、ストーリー全体からするとまだ何も始まっていない序章の序章といえる。ゆえ、多くの人にNetflix版「三体」が観賞され、次シーズンが制作されることを切に願う。 Netflixシリーズ「三体」独占配信中
編集と文・遠藤加奈(GQ)