「感情労働」のポジティブな効果とは 自分の感情に敏感になることで、やりがいや強固なチームワークを実現する
自分の感情をコントロールして顧客と向き合い、ストレスを感じる場面が多い感情労働。接客業などにとどまらず、頭脳労働にも感情労働の要素があるとされています。 感情労働について研究する東京成徳大学 准教授の関谷大輝さんによると、「感情労働ではストレスは避けられないが、感情労働に従事するからこそ得られる仕事の満足度もある」とのこと。 感情労働とは何なのか。上司や人事パーソンはどのように感情労働を理解し、感情労働に従事する部下を支援できるのか。私たちが日頃じっくりと考える機会が少ない「感情」について、その研究成果を聞きました。
“ドライバー”や“プロレスラー”も?現代で増えている「感情のコントロールが求められる」仕事
――関谷さんが現在の研究分野に着目した経緯をお聞かせください。 私は大学卒業後に公務員となり、社会福祉専門職に従事していました。働きながら社会人大学院に通ってカウンセリングや心理学を研究し、その過程で感情労働の考え方を知りました。これは当時の私の仕事に役立つ研究分野ではないかと感じましたね。 というのも、私が担当していたのはさまざまな立場の方と向き合う生活保護関係の業務だったからです。働く人、あるいは働くことができずに困っている人の感情やストレスについて深く知ることはもちろん、自分自身の仕事も感情労働だと捉えて研究することにも強い関心を抱いていました。 ――「感情労働」とは、どのような特徴がある労働を指すのでしょうか。 一言で表すなら「感情を使う仕事」「感情をうまく使わなければできない仕事」です。 肉体労働では仕事上の求めに応じて身体をうまく使っていくことが求められますし、頭脳労働では専門的な知識や知見を発揮することが求められますよね。これに対して、仕事の特性上、自分の感情をうまくコントロールしていくことが求められ、場合によっては笑顔を作ったり言いたいことを我慢したりしなければならない仕事を「感情労働」と呼んでいます。 ――感情労働にあたる仕事としてすぐに思い浮かぶのは接客や営業です。 多くの人が、そうした対人折衝を主とする仕事を思い浮かべるのではないでしょうか。感情労働の目的は、顧客など向き合う相手の気持ちや考えを変えることです。商品を欲しいと思わせる、この店にまた来たいと思わせるなどの変化を生み出すことですね。その意味では、接客や営業はまさに感情労働の代表格といえます。 ただ実際は、「これも感情労働ではないか」と考えられる仕事は多岐にわたります。昨今では肉体労働や頭脳労働でもサービスの要素を求められる場面が増えており、むしろ感情労働の要素がない仕事のほうが少ないかもしれません。 たとえば宅配便のドライバーはどうでしょうか。車を運転して荷物を運ぶという面では肉体労働なのかもしれませんが、最近では顧客の配送ニーズにきめ細やかに対応したり、配送時の対応力が求められたりと、広義の感情労働だといえるでしょう。 驚かれるかもしれませんが、最近ではプロレスラーも感情労働の研究対象になっています。自らの身体能力を売り物にするという点では明らかに肉体労働ですが、痛くてもがまんしたり、逆に笑ってみせたりすることで観客を沸かせるパフォーマンスは、まさに感情労働といえるでしょう。 このように現代では、さまざまな職業に感情労働の要素が多分に含まれているのです。