校正者は役目を終えたのか(2)増えるフリーランス、減る社員
部門再編で組織をスリム化
校正・校閲者は、誤った情報を世に出さないための重要な門番でもある。しかし、一般的に言って、利益を生み出す部門ではないため、合理化の対象になりやすい。 前回で触れたように、国内における紙の出版市場は、右肩下がりだ。同社でも校正・校閲社員の減少とともに、フリーランスの数が増加した。社員の数だけでみると、現在の47人は、80人ほどいた20年前に比べると6割の数だ。「当社の社員全体の数が減るのに合わせて、校正・校閲部門の社員も減った」と言う。 2014年4月、それまで四部まであった校正・校閲部門を、現在の二部に再編した。「校閲の仕事は減らそうと思えばできなくはないが、その分事故の確率が高くなるので、組織のスリム化に取り組んだ」と説明する。組織再編の結果、手の空いている社員が別の多忙な社員を手伝うようになるなど、全体的に仕事をより効率的に進める意識が醸成できたという。
東京・神保町にある岩波書店(東京都千代田区)では、校正・校閲担当の社員が5人のみ、その他はフリーランスの校正・校閲者五十数人に業務を外注している。外部の人間で9割を占める。 同社の出版物は単行本が9割以上を占め、定期刊行物が少ないため、月ごとの刊行点数には波がある。もしも社員の校正・校閲者を多数抱えていた場合、刊行点数が少ない時期は人手があまり、逆に刊行点数が多い時期は人手が足りなくなってしまう。フリーランスの割合を多くしているのは、刊行点数の変動にともなう仕事量の変化に対応するためだ。 また、社員の校正・校閲者の場合、異動で他の部署にうつってしまうと、せっかく身につけた校正の知識や技能が生かせなくなる。逆に、未経験の社員が配属されると、その教育に時間とコストがかかってしまう。フリーランスには異動がないので、専門性の高い知識と技能、豊富な経験を備えた人材を臨機応変に確保できるという利点もある。 制作局校正部の鈴木忠行課長(53)は、「当社の校正のやり方に慣れていて、技能の高い人にはなるべく長くやってもらうようにしており、なかには30年くらいお願いしている人もいる」と語る。 校正・編集プロダクションのぷれす(東京都新宿区)では、フリーランスの校正・校閲者が数百人登録。このうち、実際に仕事を依頼するのは月平均で100人くらいだという。 「よく仕事を発注するのは、小説や実用書、雑誌など、幅広いジャンルの仕事に対応できる人」と奥村侑生市(ゆういち)社長。幅広さはなくても、たとえば、学習教材の校正・校閲で、書かれている問題を解いて解説文の誤りを指摘できるほどの力を持つような、得意分野を確立している人も重宝するという。「できる人は引っ張りだこなんです」 (取材・文:具志堅浩二)