迫る「最終決戦」を前に…アニメ『鬼滅の刃』物語に深みを生んだ「印象的モブキャラ」を振り返る
■戦いの間に、癒しを与えてくれたおばあさん
『竈門炭治郎 立志編』では、第十四話「藤の花の家紋の家」、第十五話「那田蜘蛛山」に登場した、藤の花の家紋の家のおばあさんも印象的なキャラクターだ。 彼女は、響凱との戦いを終えた炭治郎、善逸、伊之助をもてなした、「ばあや」的な癒し系のおばあさん。いつも目を閉じていて、大きなお団子頭が印象的だが、その見た目に反して意外に行動が素早いようで、着替えや食事、布団を炭治郎らのために粛々と用意してくれた。 藤の花の家紋の家はかつて鬼に襲われたところを鬼殺隊に助けられた過去がある家のようで、鬼殺隊なら無償でもてなしてくれるのだ。 彼女の功績は、伊之助を「ほわほわ」させたことだろう。おばあさんはその優しさで、初めて伊之助の心にあたたかい感情を与えた。この時はなぜ自分の無事を祈ってくれたのかさえわからない伊之助だが、この日食べた天ぷらがのことはいつまでも心に残っている。『柱稽古編』第七話の、岩柱の「巨大な岩を一町移動させる」という修行でも「天ぷら! 天ぷら!」と言いながら士気を高めて頑張っていた。このおばあさんが伊之助に人間らしい感情を教えたといってもいいだろう。 本人は気付いていないだろうが、家族のいない伊之助にとっては大切な存在となっているはずだ。
■ごくわずかの登場ながら笑顔が印象的な青年
最後はアニメ版『無限列車編』第二話「深い眠り」から登場した、無限列車の乗客の1人である結核の青年を紹介したい。 下弦の壱・魘夢の指示に従い、無限列車内で4人の若者が炭治郎、善逸、伊之助、煉獄それぞれの無意識領域に入った。 その中でも炭治郎の心に入った彼は、当時不治の病とされていた結核を患い、これまで毎日を絶望して過ごしていたようだ。そういった現実から逃げたい気持ちがあったためか、魘夢に幸せな夢を見せてもらうために、彼の下で炭治郎の精神の核を破壊しようとしていた。 しかし、炭治郎の無意識領域の美しさとあたたかさに触れ、結核の青年は炭治郎を倒す気が起きなくなる。その後は目覚めた炭治郎を応援し、笑顔で送り出した。 登場シーンはわずかだが、炭治郎に出会ったことで救われたように優しい表情を見せたこのキャラクターはかなり印象的だった。 物語のメインでは語られないところでも、鬼によって虐げられた人は数え切れないほど多く、そしてそんな絶望の最中でも鬼殺隊に救われた人はたくさんいるのだろう。語られない物語の深みを感じさせるモブキャラクターたちを最終決戦の前に振り返ると、ますます鬼殺隊の歩んできた努力の軌跡を感じる。
折田マカダミア