スマホ普及で衰退のカメラ、注目の「Vlog」は復権の鍵になるか Z世代に広がる日常の撮影に期待し「スマホ仕様」の新機種開発
デジタルカメラの市場規模はこの10年間で約10分の1に縮小した。高性能のカメラ機能を搭載したスマートフォンの普及が要因だ。カメラ愛好家の高齢化も進む中、キヤノンは物心ついた時からスマホが身近にある「Z世代」に注目する。フィルムカメラ発売から87年を迎えた老舗が、デジタルネーティブの若者たちに向き合い始めた。 その鍵として注目したのが「Vlog(ブイログ)」。趣味や身の回りの出来事を撮影した動画だ。ユーチューブやインスタグラムで共有される。キヤノンは今年6月にVlog用のデジタルカメラを発売した。カメラの持ち方の「常識」を覆す縦型のボディーで、スマホのように片手で操作できる。衰退の一途に見えたカメラの復権はあるのか、模索が続いている。(共同通信=遠藤麻人) ▽Vlogの目的は「自分のため」 Vlogは、動画を表す「Video(ビデオ)」と、インターネット上の日記「Blog(ブログ)」を組み合わせた言葉。毎日の習慣を撮影したルーティン動画や、海外旅行の様子を紹介する動画などが人気だ。交流サイト(SNS)で共有され、一つの動画が百万回以上再生されることもある。Vlog事情について、動画クリエーターの大川優介さん(26)に聞いた。 大川さんが撮影を始めたのは7~8年ほど前。大学在学中だった。当時Vlogという言葉はなく、趣味のサーフィンに熱中する様子をSNSなどに投稿した。動画にした理由は「表情の変化や音といった情報量が多くなる。写真より見ている人の感情を動かせる」から。Vlogは海外で先行して人気となり、ここ数年で日本でも広がった。
大川さんによると、Vlogはあくまで自分のために撮影するものだという。いわば、人生の記録だ。不特定多数を楽しませる目的は不要で、これが動画投稿で広告収入を得る「ユーチューバー」との違いだと説明する。 主な担い手は30代までの若者だ。特に10代から20代前半のZ世代には、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の影響が大きい。アプリ内でリズムに乗って踊ったり、おどけたりする様子を友人と共有する。大川さんは「自分のことを発信するのって日本人にはちょっと恥ずかしい。でも、Z世代は動画で自己表現してきた人たち」と話す。 ▽スマホと無線でつながり、SNSに手軽に投稿 キヤノンは6月、Vlog用カメラとしてスマホサイズの新商品「PowerShot(パワーショット)V10」を発売した。縦長のボディーにレンズとボタンが付いている。スマホと無線でつながり、SNSへの投稿もお手軽だ。 キヤノンの大辻聡史氏は開発に当たって「スマホでつくられた価値観」を意識したと明かす。カメラ初心者にも親しみやすい製品を目指した。起動から撮影までの手間を省き、三脚を使わなくても内蔵スタンドで自立できる。多くの人を一度に収められる広角レンズや、手ぶれ補正機能などカメラメーカーならではの魅力も盛り込んだ。