資源物「持ち去り」抑止に対峙したある自治体職員の奮闘 条例で取り締まるだけでは持ち去りは減らない
一方で依田氏はパトロールを行っているうちに、条例違反での告訴を行うのではなく、「市の職員として市民の生活を守る。さわやかで安心な集積所を提供する」ことが目標となっていった。 依田氏は「時間とガソリンを使っても収穫無しにすれば、座間市には近寄ってこなくなる」と考え、自称「嫌がらせ大作戦」を展開していった。 持ち去りを見かけたら、運転席のドアの前に立ち、くどいぐらいに注意を与えた。このときの様子は密着取材され、テレビ朝日の報道番組で放送されている。
そこでは依田氏が資源物を持ち去ろうとしている者に、車に積んだ資源物を元の場所に戻させるシーンがある。市民生活を守るための気迫に満ちた仕事ぶりに依田氏の決意の表れが見て取れた。 この作戦は功を奏し、市内での持ち去りは減少していった。 資源の持ち去りが減り、夜間や早朝に集積所で脅される被害に遭う人はいなくなった。それだけでも成果であるが、それ以外にもさまざまな点が改善され、市民からは次のような声が届くようになった。
「子どもの通学時間帯の交通安全が守られるようになった」「公園で持ち去った空き缶を潰している人がいなくなったので、小さな子どもを連れて行きやすくなった」「市内の路上生活者が格段に減った」「市の職員は私たちの生活を守ってくれているという実感が湧いた」といった声であった。 依田氏をはじめとする座間市のパトロール隊の方々の思いはしっかりと市民に届いていた。安心・安全な暮らしを市民に提供し、市内の治安維持に大きく貢献していたのだ。
■現場で奮闘する職員が提供する安心・安全な生活 資源物の持ち去りを抑止するために、一部の地方自治体は条例を制定して対応している。筆者の居住する自治体でも資源物の所有権は自治体に帰属するとし、自治体や首長が指定する事業者以外は資源物を収集してはならないと定めている。 筆者は当初、条例等のルールを作れば、違反行為はある程度は抑止できると考えていた。しかし、目の前で資源物の抜き取りを見たり、依田氏からのお話をお伺いしたりし、現実は甘くないと痛感した。
悪意の違反者や反抗者と対峙していくには、その者たちと向かい合う確固とした覚悟や度胸が必要であり、時には住民のために危険を顧みずに対応していく気概が必要不可欠となる。 違反行為の撲滅には、条例制定といったルールの制定や施行は出発点にすぎないのであろう。ルールを実質化させていくには、組織的な重点的取り組みにおける現場スタッフの気概やチームワークが伴う必要がある。 現在、違反行為を見かけない地域では、依田氏のような気概を持った担当者の方々が現場で活躍しているのかもしれない。その結果、安心・安全な暮らしが住民に提供されているのではないか、と思いを馳せた。
藤井 誠一郎 :立教大学コミュニティ福祉学部准教授