大手術から奇跡を「治る!治る!治す!復活!やるしかない」34歳の西武・岡田雅利2年ぶり1軍出場で「それが大事」響かせる
各担当記者が推す選手を紹介する「推しえて」の第4回は西武・岡田雅利捕手(34)。チームのムードメーカーで、明るいキャラクターからファンにも愛されるベテランは23年3月、古傷を抱える左膝に球界でも異例の大手術を受けた。引退も頭をよぎったというが昨年は1、2軍を通じ試合に出場せずリハビリに専念した。入団11年目、今年の5月には2軍戦に出られるまでに回復した。復活への熱い思いを語った。(取材・構成=秋本 正己) こんな気持ちになったのは、いつ以来だろうか。今年4月6日、(西武の2軍本拠地)カーミニークで行われた社会人・千曲川クラブとの3軍練習試合。守りについた岡田は、まっさらなホームベースにそっと右手を置いた。 「あぁ、やっとグラウンドに立てた…。少年のような気持ちでした。野球をやって初めての時の喜び、緊張感がありましたね」 22年6月12日の広島戦(ベルーナD)を最後に1軍の試合から遠ざかっていた。マスクをかぶると、さまざまな思いが頭をよぎった。 小学1年で野球を始め、大阪桐蔭、大阪ガス、西武と捕手一筋。入団後は炭谷、高校の後輩でもある森の存在もあり正捕手の座をつかめていないが、どんな時もへこたれない明るい性格、投手に寄り添ったリードは欠かせない存在となっていた。 一方で、職業病ともいえる膝痛に悩まされていた。初めて手術を受けたのが2019年。左膝にメスを入れ、3年後の22年に再びメスを入れたが、万全の状態にはならなかった。周囲の勧めもあって昨年3月14日に千葉県内の病院で再手術。「大腿骨・脛骨骨切り術(だいたいこつ・けいこつこつきりじゅつ)」。左膝関節にかかる荷重位置を修正するため、3時間超の大手術を受けた。 球界初と言われるほどまれな手術。自身のインスタグラムで披露したエックス線写真から痛々しさが伝わってくる。当初は松葉づえで歩き、左足をつくと激痛で顔がゆがんだ。 「足をつくだけでも痛みがすごかった。今、野球ができているのも奇跡だと思います」 激痛に耐えられたのは、もう一度グラウンドに立つという強い意志があったからだ。昨オフの契約更改では3000万円から減額制限を超える2000万円減の1000万円を提示されたが、迷わずサインした。応援してくれるファン、執刀医、病院のスタッフ、トレーニングで指導してくれるジムのトレーナー、球団スタッフ…。支えてくれた人たちにプレーする姿を見せることが最大の恩返しになると信じていた。 「2年間、全く試合に出られなくてチームにも申し訳ないのですが、リハビリしている時でもファンの方が自分の応援タオルを掲げてくれたり、(乃木坂46の)向井葉月さんに取り上げていただいたり。(1軍に)戻りたい。ファンの方のおかげですし、支えてくれた方々の協力なしではこれからも野球ができないので、感謝しながらやっていきたいです」 少しずつ復帰への階段を上っている。敵地で行われた10日からのイースタン・リーグ楽天3連戦に同行。その日、途中出場すると、12日には左前安打を放った。打って、守って、走って。当たり前にできていたプレーをしながら、不安も頭をよぎる。また、けがをするのでは…。 「そういう思いもありました。『野球をやっている限りはグラウンドで試合中にけがをするのは仕方ない、しっかりやっていこう』と思っていましたけど、頭で怖さは抜けていない部分があるので、早く払しょくしたい」 不安と闘いながらも、準備は怠らない。1軍の試合は欠かさずチェック。後輩の古賀、柘植、さらには今季から復帰した炭谷のプレーを食い入るように見つめながら、自分がマスクをかぶった時のシミュレーションを欠かさず、後輩へのアドバイスも忘れない。 「入れる場所は限られてくると思いますけど、その中でも頑張っていきたいですし、早くその舞台に立ってやりたい。みんなすごく投手を引っ張っているなと思いますけれど、すごいなではなくて、入れるようにやっていかないとダメ。試合に出ていなくても、1軍のプレーを見て『こういうプレーがあったよね』と若い選手に言うのも僕の仕事です」 開幕前、ベルーナDそばの狭山山不動寺で行われた必勝祈願で絵馬に「治る!治る!治す!復活!やるしかない」と決意をしたためた。 「苦しいこともしないと絶対復帰できないと思っていた。試合に出た時にここまでできるんだという姿を一日でも早く見せたい」 登場曲は大事MANブラザーズバンドの「それが大事」。負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くこと…。復活を告げるメロディーが本拠地に流れる日が近づいてきている。 ◆L岡田3度の左膝手術と経過 ▽19年8月 関節鏡視下左膝半月板縫合術 翌年春季キャンプでの復帰へリハビリ。 ▽20年9月6日 日本ハム戦(札幌D)で復帰後、20打席目で初安打。 ▽21年12月 国内FA権を行使し3年契約で残留。 ▽22年7月 左膝関節鏡下半月板部分切除術。実戦復帰へ3か月の見込み。 ▽23年3月 大腿骨・脛骨骨切り術。4月に千葉県内の病院を退院。24年の実戦復帰を目指す。 ◆岡田 雅利(おかだ・まさとし)1989年6月30日、奈良市生まれ。34歳。小学1年で野球を始め、大阪桐蔭では2年、3年のセンバツに出場。3年時には中田翔(現中日)とバッテリーを組んで8強入り。大阪ガスを経て2013年にドラフト6位で西武入団。173センチ、80キロ。右投右打。年俸1000万円。
報知新聞社