秘湯、名湯の秋(10月4日)
奥会津の只見川沿いには、小さくても魅力的な温泉地が点在している。全面再開通から2年を迎えたJR只見線とほぼ重なる。「秘湯鉄道」と呼ぶ人がいる由縁でもある▼谷口梨花という紀行文学者がいた。100年ほど前、群馬県側から尾瀬の難所を越え、会津若松へ徒歩で旅行した。200キロくらいの距離はあったろうか。記録は「草鞋[わらじ]の旅」と題した書物に収められている。盛んに温泉に触れ、只見川の近くでは大塩、湯倉、早戸など、今に続く秘湯、名湯を取り上げた▼大塩温泉は<巌窟[がんくつ]中から湧出し、多量の塩分を含有する塩類泉>、湯倉温泉は<河畔に湧出し泉質は炭酸泉>、早戸温泉は神経衰弱や切り傷に効くとして<遠方から浴泉に来る人が多い>などと紹介している。街道をそれて、八町、玉梨といった奥地の湯にも足を延ばした。旅の疲れは癒やされたに違いない▼県内には128カ所の温泉地がある。2021(令和3)年度の環境省の資料によると、北海道、長野、新潟に次ぐ第4位。堂々の温泉王国と言えよう。現代なら歩かなくても行けるのだ。バスで車で…。みちのくの明媚[めいび]な鉄道もお忘れなく。古里の良さを再発見する秋になれば素晴らしい。<2024・10・4>