連載『lit!』第83回:マサラダ、naraku、謎J、まど枠……2024年注目すべきボカロPのニューカマー
毎年、新しい才能がクローズアップされているボカロシーン。2024年もまた新たな風を吹かせるニューカマーの登場が期待されている。そこで、今回の連載『lit!』では、2024年に注目すべきボカロPをピックアップ。なかには、現代社会への強いメッセージ性が際立つ個性的な作品も含まれている。楽曲の背後にあるストーリーにも注目することで、その深い意味にもぜひ、耳を傾けてみてほしい。 【画像】『セカイシンフォニー2023』ライブ写真 ■マサラダ「ウルトラトレーラー」 「ウルトラトレーラー」は、圧倒的なカオス感とストーリー性で、心の奥底を熱くする楽曲だ。ここまで心を奮い立たせる楽曲に出会う機会はそうそうない、というのが正直な感想。MVは躍動感あふれるマサラダ本人による手描きアニメーションで、主人公が負のスパイラルから立ち直り、誰もが恐れる存在へと変貌していく力強い姿が描かれている。高揚感を引き立てる要因は、熱のこもった歌詞のほか、SF映画の宇宙空間を思わせるシンセサウンドやストリングスを含む、幅広いサウンドパレット。ただのネタ曲ではない、涙腺が緩む要素を含んだ映画のような世界観が突き抜ける。 ■ naraku「ツクモの契」 初投稿楽曲「奈奈落落」が、Billboard JAPANの“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”(集計期間:2023年10月16日~2023年10月22日)にもランクインしたことで注目を集めたnaraku。本人のX(旧Twitter)アカウントから、「持ち主を亡くした人形の付喪神の歌」との解説が投稿されている。同曲は、篠笛や琴、和太鼓などの和楽器、鈴の効果音とシンセサイザーの現代的な音色が融合することで、独特で優美な雰囲気が醸し出されているのが特徴。メロディックなフレージングやフレーズごとに変化する曲調も、楽曲の魅力を高めており、トレンドに惑わされることなく、naraku特有の和風な音楽を奏でている印象が強く映った。 ■謎J「某国のハロウィン」 ダークエレクトロなシンセサウンドとキャッチーなフレーズが耳に残る「某国のハロウィン」。ハロウィンをテーマにしたこのMVには、謎Jの楽曲において常連の黒いジャケットを着た青年が登場する。主人公は、ハロウィンの由来を知らないまま、流行りに乗って仮装を楽しむ若者たちに怒りをぶつける。同曲は、ハロウィンというお祭りを通じて、本当の事情を知らないのに、すぐに批判や中傷をする現代のネット社会にも、警鐘を鳴らしているように思える。謎Jの楽曲に共通する現代社会への鋭いメッセージが詰まったトラックだ。 ■まど枠「多っ多」 同曲では、MVのイラストに使われたキャラクターの淡い色使いと、遊び心に満ちたサウンドが、ユートピアな世界を演出している。明るく軽快な印象を与えているのは、間奏部分のエッジの効いたベースやギターフレーズといったバンドサウンド。全体的にポップなイメージのなかに可愛らしさと切なさが共存しているのが同曲のポイントだ。特にサビでの〈たった たった〉という同じ音の繰り返しや、〈ぎゃあ〉〈あわわわわ んー、ええい〉という歌詞が浮遊感を生み出し、視聴者を楽しませてくれる。 音楽制作におけるテクノロジーが日々進歩する現代社会では、オリジナリティがこれまでよりも強く求められるようになることは間違いない。サウンドやメロディだけでなく、アーティストの個性的な視点や深い思考が反映された歌詞など、多面的な独自性がさらに重要視されると考えられる。シーンにあふれる似通った楽曲よりも、視聴者の心を揺さぶる感動や新しい発見をもたらす血の通ったボカロ曲は、2024年以降において、特に価値があると言える。そして、そうした楽曲や文化は、これからも長く愛され続けることだろう。
小町碧音