ヴィッセル神戸のバルセロナ化は今季こそ成功するのか?
一朝一夕では成功に至らない、難易度の高いチャレンジであることは、イニエスタを擁したヴィッセルが一時はJ1残留争いに巻き込まれた昨シーズンの軌跡が如実に物語っている。 「バルセロナのサッカーを、もう一度見るのは難しいというか、簡単なことではない。なぜならば、プレーモデルだけでなく、理想とする選手たちがそろっていたからだ」 長くスペインで指揮を執った過程でバルセロナと何度も対戦。J2の東京ヴェルディからセレッソ大阪の監督に転じた名将、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(61)はプジョール、ピケ、ブスケツ、シャビ、イニエスタらの名前をあげながら、一般論としてこんな言葉を紡いだ。 「世界の超一流と呼べる素晴らしい選手たちがそろっていて、そのうえでリオネル・メッシが違いを作っていた。プレー内容に関しても結果に関しても、ほとんどの試合で彼が決定的な選手になっていた」 スーパースター、メッシの代役を務められる選手は当然ながら存在しない。昨シーズンのヴィッセルではポドルスキ、FWウェリントン(31)、夏場にFC岐阜から加入したFW古橋亨梧(24)の5ゴールが最多だった。特にウェリントンは、7月18日を最後にゴールしていない。 時間を要するチャレンジだからこそ、ヴィッセルのオーナー、親会社の楽天株式会社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏(53)の本気度が問われてくる。日本円で32億円とされるイニエスタの年俸を実質的にポケットマネーでまかなったのも、リージョ監督の招へいに動いたのも三木谷氏だった。 オフにはビジャだけでなく、ワールドカップに2度出場した山口蛍(28)をセレッソ大阪から、代表歴のある西大伍(31)を鹿島アントラーズからともに完全移籍で獲得。課題とされてきたセンターフォワード、アンカー、そしてサイドバックの補強にも成功している。
もうひとつ、見逃せないのがバルセロナの下部組織でイニエスタやメッシらを育てた育成の名伯楽、アルベルト・ベナイジェス氏(63)を昨夏の時点で、イニエスタ人脈を介して迎えいれていること。ピラミッドの底辺からクラブ全体を変えていく、長期的視野に立った野望が伝わってくる。 「素晴らしいアイデアをもって取り組んでいることを、私はポジティブに受け止めている。それまでとは異なるサッカーや考え方を見聞きすることによって、日本全体のサッカー観がより豊かになる。選手だけでなく指導者、クラブが成長するきっかけになる」 三木谷氏が推し進める戦略にリージョ監督が賛同すれば、ピッチ上で船頭役を担うイニエスタも決意を新たにする。 「ポゼッションを高めるだけではなく、チャンスを作っていきたい。もちろんディフェンスにも関わっていって、チームの完成度を高めないといけない。僕がここにいる間はリーグ全体のレベルをも引きあげて、海外からも注目されるリーグにしていきたい」 楽天は2017年から、バルセロナのメイングローバルパートナーを務めている。ユニフォームの胸に『Rakuten』が掲出されてからスタートしたと言えるバルセロナ化は、現時点までの軌跡を見ている限りは、世界的なブランドに憧れた一時的なものとは言えないだろう。 黄金時代のバルセロナを再現させる夢はかなわないかもしれない。それでも、近づいていくための努力を積み重ねる過程でどのような化学反応を見せるのか。フライデーナイトJリーグとして22日に開催される、ロティーナ監督に率いられるセレッソとの開幕戦(ヤンマースタジアム長居)から注目のチャレンジが始まる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)