悲劇の“門前払い”から逆襲の黒人サムライ「日本人のトップ選手と並びたかった」
「強い、トップの日本人選手の皆さんと並ぶのが目的だったので」 彼がそう嬉しそうに語ったとき、“あのとき”のことを思い出したのは自分だけではないはずだ。 【フォト&ムービー】初のボディビルでモリモリの筋肉を見せるパトリック 10月19日に開催された、ボディビルのレジェンド・木澤大祐&合戸孝二主催の「ジュラシックカップ2024」のノービスクラスにて優勝したのは、カメルーン出身のケンソン・パトリックだった。「黒人サムライ」の名でチャンネル登録者約23万人を誇る人気YouTuberでもある。移住したフランスで、ボランティアとしてやってきた日本人に空手を教わったことをきっかけに日本文化に触れ、「大人になったら空手の先生になりたい」と、20歳のときに来日。その後、筋トレにはまり、2016年にベストボディジャパンでコンテストデビュー、マッスルコンテストなどのフィジーク競技でステージに立ってきた。 件の“あのとき”とは2年前、2022年秋のこと。 当時パトリックは、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)主催のフィットネス競技の日本一決戦「オールジャパン・フィットネス・チャンピオンシップス」のマスキュラーフィジークカテゴリーへの出場に向けて体づくりを進めていた。ところが、エントリーを済ませた大会当日の会場受付にて、「日本国籍ではない」ことを理由に、出場できないと言い渡されてしまったのであった。 出場条件が日本人に限られることは規約に記載があり、本人の確認漏れが悲劇の要因ではあったものの、周囲に気付く者がいなかったのか、あるいはJBBF側でもエントリー段階で気付くことはできなかったのかなど、当時SNSで話題になったのは記憶に新しい。この件に関してはこれ以上触れないが、日本トップレベルの勝負の場でそのボディを披露する機会が失われてしまったのは事実であった。 あれから2年、パトリックはステージに帰ってきた。 2021年以来の大会出場となった今シーズンは、9月の「LEMON CLASSIC 2024 Grand Championship Hiroshima」に2カテゴリーで出場。クラシックフィジークで7位、フィジークで4位と実績を残した上で、ジュラシックカップにて初挑戦となるボディビルに臨むことに。もともと、昨年出場したサイヤマングレートから最上位のグランドクラスへの出場を紹介されたが、「まずはノービスで優勝してから」ということで、JBBFでのコンテスト出場経験がない選手向けのノービスクラスにエントリーした。 今大会に向けては、サイヤマンとともに壮絶な脚トレにも励み、ボディビルダーとしての研鑽を積んできた。フィジークカテゴリーでの実績もあり上半身は他の出場者の中でも群を抜いており、長い手足や柔軟性を生かしたしなやかなポージングを見せて、見事に優勝。同時にグランドクラス出場権も獲得した。 表彰式で最後に名前がコールされると頭をうずめ、涙とともに喜びが爆発。日本トップレベルの選手が参戦したグランドクラスにて、2年前には叶えることができなかった「トップの日本人と並ぶ」という目的を達成し、結果は16位と予選突破はならなかったが、晴れ晴れとした笑顔でステージに立つ姿は印象的であった。
大会後、「一年間かけて来年のグランドクラスにまた立ってるのが次の目標です。これからもよろしくお願いします」とSNSに綴ったパトリック。さらに進化したボディで日本人に立ち向かう彼の姿を楽しみにしたい。
文・写真/木村雄大