“他人を絶望させる快感”を味わえるファンタジー版“タルコフ”ライクなゲーム『ダークアンドダーカーモバイル』は、ドッロドロに殺伐&陰湿……なのに優しい!? 過酷だけど救いはあるので、何度でも絶望できる
「人間を絶望の淵に叩き落とす」──この純粋な動機から、殺伐とした対戦ゲームが大好きだ。 『ダークアンドダーカーモバイル』画像・動画ギャラリー しかし、作品がハードコアであるほど、プレイヤーから多くの時間を奪い去り、疲労させ、精神を蝕む。時間やこころの問題から、なかなか遊べない。 それでも、多くの苦難やストレスを乗り越え、他者をボコボコにする行為を愛している……そんな矛盾した“想い”に苛まれるゲーマーは決して少なくないだろう。筆者もそのひとりである。 鬼畜な仕様で話題を呼んだPvPvE型対戦ゲームのモバイル版『ダークアンドダーカーモバイル』は、上述したシリアルキラー版「ロミオとジュリエット」的なゲーマーを救済する作品になるかもしれない。 まず注目したいのは、PvPvE形式のマップに出撃し、戦利品を獲得して生還を目指す『Escape from Tarkov』や、PC版『Dark and Darker』といった類似システムを有する作品と比べて「メチャクチャ遊びやすい」点だ。 無論、本作には敗北した際にアイテムや装備を失う「全ロスト」要素が存在する。しかし、本作には敗北後も失われない永続的な成長要素が多数追加され、ソロでもNPCとパーティーを組める「AI傭兵」機能も搭載。さらに、スキルもクールタイムごとに回復する。 これらの追加要素により、類似作品に見られる“手厳しさ”に挫折した方も、健全な魂のまま死闘に興じることができる。もう時間や魂の摩耗を恐れる必要はない。 いっぽう、『Dark and Darker』の基本システムを踏襲することで、「いつ横やりを入れて殺されてしまうのか」という疑念に満ちた緊張感もバッチリと継承している。 強力な敵との戦闘を避けたり、むしろNPCを利用して他プレイヤーを倒したりと、狡猾にならざるを得ないマクロな立ち回りも必須。悪くてズルい奴ほど強いのである。 つまり本作は、従来ではハードコアな作品の核となる旨味を、カジュアルなバトルを通じて摂取できる作品と言える。まるで“地獄の沼に無傷で入浴できる”ような懐の広さは、本作のユニークな魅力となっているはずだ。 このたび、観光のソウル市江南区に位置するKRAFTON本社に日本のゲームメディアが招待され、『ダークアンドダーカーモバイル』をプレイする機会を得た。本記事ではPC版のプレイフィールを踏まえつつ、独自に進化を遂げた本作の詳細をお届けしよう。 本記事の後半には、『ダークアンドダーカーモバイル』のプロデューサー・アン ジュンソク氏への合同インタビューや、KRAFTON本社のスタジオツアーの模様もお届けする。KRAFTON本社は「社員が会社に住めてしまう」ような豪華極まりない施設となっているため、こちらも合わせて楽しんで頂ければ幸いだ。 文/りつこ 編集/竹中プレジデント ■怪しい奴はとりあえず斬りたい。疑念、勘ぐりに満ちたダンジョンに挑む『ダークアンドダーカーモバイル』 改めて本作の概要をおさらいしておこう。『ダークアンドダーカーモバイル』はIRONMACEが2023年に発売したPvPvE形式のダンジョン探索ゲーム『Dark and Darker』のモバイル版だ。開発は『PUBG』で知られるKRAFTON社のスタジオ・Bluehole Studiosが担当している。 PC版の『Dark and Darker』は2022年より実施されたプレイテストの時点で100万人がゲームをプレイする異例の人気を博した。国内では関優太さん、SHAKAさんといった著名なストリーマーも配信を実施し、高難度でハードコアなゲーム性が高い評価を得ていた。 ゲームプレイは最大3人のパーティーを組んでダンジョンに挑み、敵や「攻撃的な他プレイヤー」を打ち倒しながら物資を回収。そして、マッチの中盤から終盤にかけて出現する「青いポータル」を起動し無事に帰還することを目指す。さながらダンジョン版『Escape from Tarkov』といったスタイルの作品だ。 最大のポイントは、いわゆる「全ロスト」するシステム。ダンジョンからの脱出に失敗してしまうと、所持している装備や所持品を失ってしまう。つまり、探索を重ねて集めた強力な装備や武器も、ちょっとしたミスで全て水の泡……。 ふとしたタイミングで敗北し、強力でレアな装備を他プレイヤーに奪われる場面もしばしば訪れるだろう。【※】 また、マッチが開始すれば安全に行動可能な範囲が次第に狭まる「バトルロイヤル」型のシステムも用意されているほか、脱出する為の「ポータル」は参加したプレイヤーの人数分は必ずしも即座に出現しない。 ポータルを起動する際には一定の時間を要するため、近くにプレイヤーが存在するなら「いっそ殺した方が安全ではないか?」と感じるはずだ。 つまり、本作は「他プレイヤーを殺す必要はない」ものの「殺したくなる」「殺さなければ生きられない」セッティングを巧みに施している。 この仕様は鬼畜そのものだが、ギスギスとしたスリル満点のダンジョンだからこそ「生還の喜び」は増幅する。醜い欲望を剥き出しにして生還した暁には、もう安全な人里には帰れない。きっとあなたも「ヒリ付き」の虜になっているだろう。 ■重たいバトルをスマホで実現。細かいレベルキャップやスキルの強化で序盤からゴリゴリ生還可能 PC版では上述した要素以外にも無数に鬼畜でハードな要素が存在する。初心者の筆者がソロでプレイを開始した際には、余裕で数時間は生還できなかった。 ノコノコアイテムを漁っているうちに背後を取られ死亡。メチャクチャ暗いエリアで敵に気づかず、複数の敵に殴られ死亡。狭いエリアで戦闘し、武器が壁面やオブジェクトに引っ掛かり死亡。戦っている最中に壁からヤリが出るトラップに気づかず死亡。味方のフレンドリーファイアでアタマをブチ抜かれ死亡。初心者なのに3人パーティーにボコボコにリンチされ死亡。振り子のようなデカい斧を潜り抜け、宝箱を開けたらミミックで死亡。……などなど、ゲームを始めたばかりの頃は、実質無限に死亡する。 しかし、『ダークアンドダーカーモバイル』を試遊した際には一度しか「全ロスト」をしなかったし、体験会に参加した多くのメディアがスムーズに本作を遊べていた印象だ。ズバリ革命が起きている。 ここからは明るく、モバイル版として遊びやすく調整されている要素を紹介していこう。 まず注目したいのは、圧倒的な動作の素早さだ。 PC版『Dark and Darker』といえばあらゆる動作がクッソほど重たく、遅く、動作後の硬直もマジで長い。全ての動作が隙になる。序盤から当然のように敵が硬く、攻撃力も高いため、焦って攻撃ボタンを雑に連打すれば爆速で天国への階段が開かれる。 動作に癖がある上にフレンドリーファイアも有効であるため、デュオやトリオで遊んでいれば、乱戦の中で味方を殺す、殺されてギスる場面も決して少なくない。 『ダークアンドダーカーモバイル』では、とくに攻撃や盾での防御といった基本的なアクションにおける予備動作や攻撃後の硬直時間が大幅に減少しており、敵の攻撃の直前で「防御」を入力しても充分に敵の攻撃を防ぐことが可能だ。 動作自体は充分にウェイトのある重厚なアクションであるため、敵の動作をしっかりと見極め、的確に攻撃していく戦闘を適度な歯ごたえで楽しめる。 また、マップごとのレベルキャップがPC版以上に細かく区分され、最序盤のダンジョンがかなり低難度である点も大きな変更だ。 PC版の序盤における鬼門は間違いなくNPCで、その高い攻撃力や物量により、初心者はライフを一瞬で解かされ洗礼を受ける。攻撃パターンや立ち回りに慣れないうちはソロ用ダンジョンに出現する「ゴブリン」ですら倒すのに一苦労するし、容易に生還することは困難であった。 いっぽう、『ダークアンドダーカーモバイル』の最序盤で戦うゴブリンは、数回の攻撃ですんなりと倒せる上に、攻撃力も控えめ。攻撃を予告する表示も用意されており、ゲームの仕組みに慣れるためのサンドバックとしてこの上なく最適だ。 ゲーム開始時に「出撃後に秒殺されて学ぶしかない」というのは、普通にスパルタ過ぎる。教育の現場であればPTAが召喚される。段階を分けて物事を教えてくれるクソ雑魚ゴブリンたちの胸を借りつつ、ダンジョンの空気感に慣れていこう。 ダンジョンは筆者がプレイした時点で4段階に区分されており、装備などの強さから算出される「装備スコア」に従って出撃できるダンジョンが設定される。 そのため、NPCのみならず「戦うプレイヤー」の強さも細かく最適化され、「長時間遊び続けて戦力が天元突破したプレイヤーに初心者が狩られ続ける」状況も発生し辛い。モバイル版として“忙しい方も安心して遊べる”環境に期待できるだろう。 このほかに、1人称ではなく空間が把握しやすい3人称視点になっていたり、マップが明るいので暗黒を松明やランタンで照らす必要がなかったり、従来ではアイテムを使用しなければ一度しか使用できなかった「回復などのクソ強力なスキル」も複数回使用できたりと、「モバイルでの遊びやすさ」を重視した変更が実施されている。 試遊では、近接戦闘の性能と高い対応力が魅力のクラス「ファイター」を中心にプレイしたが、便利な回復スキル「セカンドウィンド」がクールタイムを置けば複数回使用できる仕様となっており、回復手段の充実を感じた。 PC版では敵の攻撃力が高いのはもちろん、回復手段が乏しく、ひとつのダンジョンを探索していく中でジリ貧になっていくひもじい想いをすることが多かったが、適切なスキルを選択すれば終盤までピンピンの状態で冒険できる。健康が一番だ。 実際にプレイしたところ、普段スマートフォンでアクションゲームを遊ばない筆者でも快適に戦闘や探索を行えた。そのため、操作性においてもモバイルへの最適化に成功していると感じる。 取材をする前には「あんなにニッチで極悪なゲームをどうやってスマホに移植するんだ?」と少々疑念を抱いていたが、間違いなく「とにかく遊びやすい」ため、幅広いプレイヤーが楽しく死闘を繰り広げてくれそうだ。 ■あれ、全ロストしても案外イケる。追加された成長要素、AI傭兵が救う数多の命 カジュアルなチューニングに身を任せてダンジョンでイキり散らかしていると、脱出ポータルが見つからず無事に死亡した。 さようなら等級の高い装備たち、さようならPKして獲得した戦利品……。 「全ロスト」したからには、再び“安心できない初期装備”に戻り、ヒリヒリしながら“安心して戦える装備”をジワジワと集めていく。実時間は進んでいるのに、同じ時間をループしているような、修行的な時間が待ち受けているのだ。ワクワクして冷汗が出る。 落ち込んでロビーに帰還すると、なんと死亡後の装備は初期装備より格段に強力で充実していた。これは『ダークアンドダーカーモバイル』に新たな謎の協力者・支援者が登場したことに起因している。 支援者は、「全ロスト」したプレイヤーに装備などを提供してくれる謎の支援者。武器の購入や売買を行える「商人」と同様にクエストを依頼してくる人物でもあり、クエストを達成するほど友好度が上昇する。 友好度が上昇することで、なんと「全ロスト」後に入手できる初期装備がグレードアップされていく。さらに、クエストを進めれば装備のみならず回復薬や包帯といった必須アイテムも提供してくれる大盤振る舞い。 これにより、「全ロスト」し続けても「かなり弱い装備で再育成」するコストが大幅に軽減されている。 くわえて、ダンジョンで獲得したアイテムを納品することで永久的にバフを獲得できる機能「コレクション」も登場。支援者が提供するクエストや「コレクション」は最序盤であればスムーズに達成可能だ。 このほかにもPC版と同様に複数の商人や、商人によるクエストも用意されている。 クエストをこなすことでレアアイテムが販売される確率が上昇したり、アイテムの販売価格が低下したりと恩恵を受けることが可能だ。心の底から有難い……。 そもそも、PC版ではゲームを開始してから初めて生還するまでも一苦労だったが、装備を整えて「軌道に乗せていく」までの工程や所要時間も長大であった(β版の最初期はゲームの起動にもメッチャ時間を要した)。それ故に各戦闘で「負けたくない」「どうにかして生還したい」という切実な想いを抱えて戦えるため、高難度であるが故の魅力は確実に存在する。 しかし、結果として「強くなっていく」体験そのものに長時間を要するため、じっくりと遊ぶためのコストは凄まじく大きい。なにより、こういった体験はモラトリアムの最中にある人間か、石油王、世捨て人以外はなかなかコミットし辛いだろう。 円滑にプレイヤーをルーティンに誘う設計は、とくにモバイルゲームとしての間口を広げてくれるに違いない。 ちなみに、PC版はソロプレイでも充分に遊べるが、友達が居なければ見知らぬ人を招待してパーティーを組んだり、2人以上で挑むダンジョンにひとりで挑む必要があった。勇気を出して手あたり次第に知らない人を招待するのは疲れるし、3人パーティーにタコ殴りにされると、なぜか目頭がアツくなる。【※】 この問題を解決すべく、本作では「AI傭兵」システムが用意されており、NPCと共に2人以上用のダンジョンに挑戦可能だ。さらに、2人以上のダンジョンでは出撃時の自動マッチングシステムが存在し、スムーズにトリオとして遊ぶこともできる。 友達がいないことを理由に、ダンジョンから足を遠のかせる必要は無い。心行くまで孤独の崇高さ、自動マッチングによる刹那的な出会いの美しさを享受しよう。 ■メディア対抗戦勃発、他者メディア全員ぶっ殺してきた。初対面の“おとなたち”もあの頃を思い出せる美しさ 体験会のラストでは、参加した全メディアによるマッチをトリオ用のマップ・忘却の城で実施された。 試遊したモバイル版ではバランスよく戦えるファイター、弓での遠距離が得意なレンジャー、近接での戦闘に特化したバーバリアン、回復や復活呪文も使用できるクレリック、DPSが高く奇襲や離脱も得意なローグと5つの役職が用意されていたが、我らパーティーはファイター3名という脳筋構成。 初対面の社会人3名がお互いに気を使いつつ、ダークファンタジーな古城へ挑む。 しかし、マップの敵はソコソコ歯ごたえがあり、高い機動力と攻撃力を誇る巨大な狼や、赤いカラーリングの強力なスケルトン、メチャクチャな火力と体力を持ち合わせたゴーレムなどが出現。 よそよそしい“おとな”も次第に人間らしさを見せていく。 本作はトリオでプレイした際には、ダウン時間の味方を一定時間の間であれば助け起こすことができる。また、味方が完全に死亡した際にも「蘇生の祭壇」にて復活させることが可能である。 全メディアによる対抗マッチでも、ふとしたタイミングでパーティーメンバーが命を落としたため、復活システムを活用。真心の籠った感謝の言葉を聞けば、出自や年齢、所属組織といった違いは関係ない。もはや“マブ”である。 キャッキャとコールしながら探索するダンジョンは、まるで友達の自宅に集いゲームで遊んだ“あの頃”のよう。タイムスリップしたようなノスタルジーに包まれ、まさに風あざみってカンジだ。 打ち解けたからには、もう気合を入れて脱出を目指すしかない。襲い来る敵は全員ぶっ殺そうと、言葉にせずとも理解(わか)っている。 エリアが良い塩梅に迫ってくる頃、タイミングよく3人そろったパーティーが接近してくる。移動速度の向上、回復スキルを発動させ激突。 まずはひとりを多人数で溶かして人数有利を狙うも、敵にもひとり落されてしまう。敵が筆者を狙って来たためシールドでいなし、残されたパーティーメンバーと共に隙をついてまたひとりノックダウン。 2対1の状況を作れたかと思えば、敵がもうひとりのパーティーメンバーを蘇生。復活ざまに斬られ、ノックダウンし敗北を悟るも、最後のパーティーメンバーがカバーキルを取り見事勝利。助け起こして頂き、無事に生還した。 マッチした全員に直接手を下した訳ではないが、敵対したゲームメディアを殲滅することに成功したのである。 初対面の良い年をした社会人3名が、中高生の部活の試合バリに「ナイス!」と声を挙げる。殺伐とした死闘が生み出した、みずみずしく美しい瞬間だ。 トリオでの試遊を通じて驚かされたのは、初対面で初心者のプレイヤーが、2時間ちょっとでスキルの有効活用や連携を行うドラマチックな試合を行えた事実である。 一般的に、歯ごたえのある対戦ゲームであれば、ほんの数時間で初対面の素人が連携はなかなか取りづらい。筆者のパーティーメンバーにはアクションゲームはあまり遊ばないプレイヤーも所属していたため、なおさらトリオでの勝利は奇跡的に感じる。 しかし、それは奇跡ではない。原作のエッセンスを継承しつつ、幅広いプレイヤーが遊べるような施策を多角的に導入した『ダークアンドダーカーモバイル』が成した結果だ。 つまり、本作はPC版にも見られた「ハラハラドキドキの殺伐スリル」と対戦ゲームが得意ではないゲーマーでも楽しめる「遊びやすさ」を見事に両立させている。 そして、「なんならハードな方が良い」と僅かながら感じていた筆者も、トリオによるドラマチックな戦いを経て、身を持って「多くのプレイヤーが楽しめる」作品の魅力を思い知らされた。 対戦ゲームに苦手意識があるが「殺伐としたダンジョンに潜りてぇ」と感じた方は、ぜひ『ダークアンドダーカーモバイル』に足を踏み入れて頂きたい。ヘルシーにチューニングされたストレスが、きっと暖かく迎え入れてくれるから。 ■『ダークアンドダーカーモバイル』プロデューサー・アン ジュンソク氏インタビュー そんな殺戮の宴を楽しんだ直後、本作のプロデューサーを務めるアン ジュンソク氏へのメディア合同インタビューが実施された。 ニッチで硬派な『Dark and Darker』モバイル版の開発に至る経緯や、モバイル版が独自に提供するコンテンツの予定などを伺った。 ──『Dark and Darker』をモバイルゲーム化しようと考えたきっかけ、狙いについて教えてください。 アン・ジュンソク氏: 『PUBG: BATTLEGROUNDS』は他のプレイヤーと競い合うことはもちろん、他の人のプレイを見ることも楽しく、プレイヤーが個人の経験を物語のように語れる作品です。『Dark and Darker』は、そういった『PUBG: BATTLEGROUNDS』と同じ性質を持っていると思ったんです。 また、中世風のファンタジーという由緒あるジャンルを活かしたユニークな魅力もある。なので、ゲームのキャッチーな側面を補強し、遊び続けられるような作品にすれば、成功の可能性があると考えました。 もうひとつの理由としては、『Dark and Darker』PC版が発売された際に、Bluehole Studioはすでに「Adventurer’s Battlegrounds (Project AB)」という『Dark and Darker』に近しいジャンルの作品を独自に開発していました。 なので、「Project AB」に『Dark and Darker』PC版の魅力をうまく活用すれば、作品の長所を拡張できると考えました。 ──近しいジャンルの作品を、すでに内部で開発していたんですね。アン・ジュンソクさんも脱出系ジャンル【※】がお好きなんでしょうか。 アン・ジュンソク氏: Project ABは脱出系ジャンルの魅力以上に、RPGジャンルの革新を図り、新しい方向性を模索しようとしたプロジェクトでした。ここに『Dark and Darker』PC版の多くの要素を導入することで、『ダークアンドダーカーモバイル』はより脱出系ジャンルとしての側面が強調された形になっています。 私は個人的に『モンスターハンター』シリーズや『ダークソウル』など、伝統的に人気のあるアクションRPGが好きです。 ──『Dark and Darker』PC版は、「パソコンの前でのめり込んで遊ぶような」コアゲーマー向けのゲームだった印象です。『ダークアンドダーカーモバイル』を比較的ライトなスマホゲーマーが楽しめるために行った工夫をお伺いしたいです。 アン・ジュンソク氏: 端的に言えば『ダークアンドダーカーモバイル』は、PC版とは異なる作品として独自の要素を取り入れています。 たとえば、PC版でダンジョンからの脱出に失敗すれば、アイテムを全て失ってしまい、また装備を整える必要がある。そして、装備を整えなおすことも大変です。プレイヤーによってはこのプロセスに疲れてしまい、ゲームを継続して遊べなくなってしまうと思うんです。 本作では、こうしたプレイヤーにストレスが掛かる要素に対して、「ユーザーが諦めずにゲームを続けられる」ような機能、調整などを独自に用意しました。 ──PC版をプレイした際には、確かに「装備を整え直す」工程は大変でした。 アン・ジュンソク氏: ですので『ダークアンドダーカーモバイル』では、支援者システムを導入し、「全ロスト」した際にも装備を整え易く設計しました。ゲームの核心となるゲーム性に関して、この仕様は重要な要素であると考えています。 また、モバイルに環境を移行する中で自然に改善した部分もありました。たとえば、『ダークアンドダーカーモバイル』ではゲーム画面が明るくなっています。というのも、画面が小さいモバイル環境で原作と同じダンジョンを再現すると、ゲームをプレイするのが困難だったんです。 操作に関しては、モバイルはタッチベースの操作にする必要があります。そのため、本作ではより直感的な操作性にする必要がありました。そういった変化や調整からも、より多くのユーザーが楽しめる作品に仕上がっていると思います。 本作には、バトルロイヤル形式のPvP、ダンジョンクロウラー型の探索、RPGと3つのジャンル的な特徴があります。 ここにおいては、原作のままPvP要素を導入する作品がハードになり過ぎてしまうため、PvP要素をPvEのように楽しめるように調整を実施しています。ただ、今回遊んでいたただいたテストビルドでも、操作が忙しく、難しく感じられたかもしれません。今後提供するビルドでは、より操作が簡単なゲームに改善を努めます。 ──ユーザーが日常のどのようなタイミングで『ダークアンドダーカーモバイル』をプレイすることを想定していますか。 アン・ジュンソク氏: 『ダークアンドダーカーモバイル』は、基本的に非常に集中して遊んでいただくことを想定しています。 いっぽう、「画面をサッと見て確認するだけ」で楽しめるコンテンツも今後実装する要素として検討しています。集中してセッションプレイを行い、あとは非同期プレイをおこなうようなスタイルも計画中です。 ──本作はライブサービス型の作品となりますが、今後のゲーム運営において最も重要視している部分は何ですか? アン・ジュンソク氏: 先ほど述べたように、脱出系ジャンルの魅力を提供しつつ、「プレイヤーが遊び続けてくれる」ような仕掛けを用意することは、最も大きな課題のひとつですね。そのために、RPG的な収集要素や、他のユーザーと交流しながら遊べる要素を強化していく予定です。 また、本作においては様々なクラスでゲームをプレイし、装備を集めて独自のビルドを構築する楽しさ、新たなマップを探索する楽しさも提供したいと思ってるんです。そのために、新クラスやマップも沢山追加していく必要を感じています。 具体的には、PC版にも登場していたウィザード、バード、ウォーロック、ドルイドの追加を検討していて、マップは雪原をはじめ「自然」をコンセプトにしたものが候補になっています。 ──クラスのほかにも、『Dark and Darker』PC版のコンテンツが『ダークアンドダーカーモバイル』にも追加される予定はありますか。または、モバイル版専用のコンテンツを追加していくのでしょうか。 アン・ジュンソク氏: 『Dark and Darker』PC版と『ダークアンドダーカーモバイル』は開発会社も異なり、完全に別の作品となります。いっぽうで、PC版のクリエイティブを尊重しているので、ビジュアルや手触り、ダンジョン、特にクラスは原作を重視しています。 モバイル版独自のコンテンツとしてはPvPコンテンツである「アリーナ」や「シーズンダンジョン」など、様々なモードの追加を予定しています。 ──試遊させて頂いたビルドには、5つのクラスが用意されていました。アン・ジュンソクさんはユーザーとして、どのクラスが最も好きですか。 アン・ジュンソク氏: 初めは様々な武器を自由に使える「ファイター」を愛用していました。しかし『ダークアンドダーカーモバイル』を開発しているうちに、徐々にレンジャーが好きになりましたね。 というのも、レンジャーは遠距離攻撃を主体にしており、モバイル環境で実現するのが難しいクラスです。実際にレンジャーをプレイしてみると、操作において難しいと感じる部分がありました。そこから、開発過程で調整を続けていくうちに、レンジャーをどんどん好きになったんです。 現状でも、モバイルでレンジャーを操作するのが容易ではないと感じる部分があるかと思います。しかし、今後お見せするビルドでは、レンジャーがより便利で強力なクラスになるよう改善する予定です。 ── 今年4月には韓国で『ダークアンドダーカーモバイル』の大規模なプレイテストが実施されました。韓国のユーザーにはどのコンテンツが人気でしたか。 アン・ジュンソク氏: テストを開始した当初は、ゲームプレイの流れとしてひとり用ダンジョン「ゴブリンの洞窟」が多くプレイされていましたが、テストが進むにつれて「忘却の城」での3人パーティープレイも多く行われるようになりました。 「一緒にプレイするのが楽しい」というフィードバックが多く、3人パーティーでのプレイに対する満足度が高いと感じています。これを受けて、いわゆる「ギルド」機能をベースにしたコミュニティの拡張、ユーザー同士がゲーム内で集まる場所の追加なども目指していきます。 ── 試遊させて頂いた際にも、やはり3人パーティーでのプレイが楽しかったです。 アン・ジュンソク氏: ありがとうございます。韓国で実施したプレイテストでは、ひとり用のダンジョン、3人パーティー用のダンジョンにくわえて、PvEコンテンツの「討伐ダンジョン」が用意されていました。 『ダークアンドダーカーモバイル』の核心となるコンテンツはPvPだと考えていたため、PvEコンテンツについては社内でも多くの議論があったんです。しかし、ユーザーからのフィードバックではPvEコンテンツに対するユーザーの満足度が非常に高かったです。 その理由としては、緊張感のあるPvPとは異なり、少し余裕を持ってプレイできることが理由だと考えています。 ── マルチプレイに関してですが、オートマッチングを使用した際に、アイテムをチームメンバー同士で奪い合うことになる可能性があります。この問題はどのように解決するのでしょうか。 アン・ジュンソク氏: 質問して頂いたケースの解決策としては、AI傭兵を利用して頂くことも解決策のひとつです。いっぽう、チームメンバーとアイテムを分け合う方式も検討しており、アイテムの所有権をマッチング前に選択できる方向性で計画しています。 また、ユーザーにとって好ましいプレイヤーと共にプレイできるように、コミュニケーションツールを強化したり、「ギルド」機能により知っている人と遊びやすくする試みも検討中です。 ── 4月のプレイテストでは、改善の余地がある要素はありましたか。 アン・ジュンソク氏: ユーザーフィードバックの中には、ゲームバランスに関する意見も多かったです。『ダークアンドダーカーモバイル』は従来のモバイルゲームとは異なるスタイルの作品であり、「より序盤のシステムやコンテンツの解説が必要だ」という意見も頂きました。この点は改善していく予定です。 また、PvEコンテンツの人気などから「ユーザーが余裕を持って遊びたい」という傾向も伺えたため、ストレスを少なく遊べるコンテンツを拡大する予定です。 そして、最も重要な点としては、世界観や設定です。というのも、『ダークアンドダーカーモバイル』には独自のコンテンツを多数用意しており、現状ではゲームプレイと世界観、設定をひとつにまとめるような整合性を取れてないんです。なので、この点を補うための努力も行っています。 ──アン・ジュンソクさんは、 日本のモバイルゲーム市場についてどのような認識を持っていますか? アン・ジュンソク氏: 日本市場は『ダークアンドダーカーモバイル』にとって重要な「ティア1」の市場のひとつとして考えています。 そこで日本のモバイルゲームの上位チャートに目を向けると、さまざまなサブカルチャーゲームのほかバトルロイヤル系の対戦型のコンテンツも人気があります。そういった日本のモバイル市場の傾向は、日本展開の方法を考える要素のひとつです。 いっぽう、日本市場においてはモバイルだけでなく、PCやコンソール市場など、総合的に分析する必要があると考えています。 なぜなら、日本市場ではブランドが作られる際の歴史や文脈なども重視され、IPや背景設定などに強度があるコンテンツが反響を呼ぶように感じているからです。『ダークアンドダーカーモバイル』は中世ファンタジーという由緒あるジャンルを上手く継承した作品なので、そういった点で日本のユーザーにもアピールしたいです。 『ダークアンドダーカーモバイル』が日本市場に進出した際には、ユーザーと様々な手段で意見を交わし、日本のユーザーがファンになって頂けるよう努力します。 ──『PUBG MOBILE』では、『ドラゴンボール』のような日本の著名なIPとコラボレーションを多く実施しています。『ダークアンドダーカーモバイル』では日本のIPとのコラボレーションを予定していますか。 アン・ジュンソク氏: 積極的に実施したいと考えています。国別にゲーム市場を調査した際、日本のユーザーのニーズとして、コラボレーションキャラクターへの需要が大きいことが伺えました。 『PUBG MOBILE』はクラス、装備も多様であり、傭兵システムも存在し、コラボ企画を実施するための優れたベースがあると思うんです。これらを積極的に活用する予定です。 ──日本市場のユーザーが『ダークアンドダーカーモバイル』を正式リリース前にプレイできる機会はありますか? アン・ジュンソク氏: 『ダークアンドダーカーモバイル』は年内にグローバル市場にリリースする計画ですが、それに先立って主要国でのテストを行う計画です。ですので、次回のビルドテストでは日本等のグローバルユーザーさんも参加できる予定です。 ──日本で『ダークアンドダーカーモバイル』のリリースを待つファンに向けた、メッセージをお願いいたします。 アン・ジュンソク氏: 『ダークアンドダーカーモバイル』は中世風ファンタジーをベースにした作品であり、日本で愛されるコンテンツになると考えています。日本のユーザーさんとコミュニケーションを取りながらゲームを発展させていく予定ですので、ぜひご期待ください。 ■これ、会社に住めちゃうじゃん!「社内ネカフェ」もあるKRAFTON本社ツアー 『ダークアンドダーカーモバイル』を手掛けるKRAFTONは、ソウル市江南区に本社を構えるゲーム会社だ。2007年に設立され、12のスタジオを有している。 KRAFTONの代表的な作品と言えば2017年に早期アクセスを開始した『PUBG: BATTLEGROUNDS』が挙げられる。同作はいわゆるバトルロイヤル系のFPSとして早期にヒットした作品として知られ、PC/コンソール販売量は7500万本を突破。発売後はSteam史上最大となる同時接続者数325万人を記録した作品である。 また、2018年よりモバイル版『PUBG Mobile』がリリースされ、累計10億以上のダウンロードを記録している。 そんな大成功を収めたKRAFTONの本社は、きっとおとぎ話に出てくるような豪勢な環境なのではないか……とガキくさい想像をしていると、マジでその通りであった。本記事のエンドロールとして、お城のようなKRAFTON本社の全貌をお届けしよう。 本社ツアーの一環として、まずは社内食堂に案内して頂いた。エレベーターを出ると『PUBG』や『ダークアンドダーカーモバイル』に登場するアイテムを再現したオブジェクト、そして再び巨大なディスプレイが待ち受けている。 至る所にデカめのディスプレイが配置されており、非常にリッチ。そして非常に広い。ちょっとしたスポーツとかできるレベルで広々としている。 社員食堂は韓国料理や洋食、サラダバーなどが用意されており、もちろん韓国料理のランチをチョイス。こってりとしたチゲ鍋を主軸にしたビルドで、揚げた卵が乗せられた白米、無数のキムチ類を乗せた小鉢。フィッシュフライが乗せられている。 自分でビビンバのようにして楽しむデッキ構築型となっており、マジでウマいしお代わりも自由。さらに、食堂には冷蔵ショーケースが設置されており、さまざまな飲み物やちょっとした食べ物が格納されている。こちらは自由に食べ飲みして良いらしく、KRAFTONで働けば生きるうえで食費を気にする必要はなくなりそうだ。 食堂にはステージのような設備が用意されており、こちらにも巨大なディスプレイが用意されている。どうやら、配信用の設備も備えており、国内、国外の支社とのオンライン会議などを行える。 また、食堂は社内のスタッフ、社外から招いた客人との交流も行える設計であるそうだ。充実した食堂の設備は、しっかりと企業としてのメリットや目的も兼ね備えている。 食堂にはカフェも設営されており、こちらはTold A Story Coffee Roastersという韓国のコーヒースタンドとKRAFTONのコラボ店舗となっているようだ。 価格は特別価格となっており、コーヒーやアイスティーはかなりデカいサイズで1000ウォン(だいたい100円)と破格になっており、メチャクチャお得である。もちろんメチャクチャ美味しい。 そして、お話によると夜には酒類も提供されるらしい。凄すぎて意味不明だ。KRAFTONで働けば水分補給やカフェイン、糖分、アルコール、お洒落な飲料からしか得られないマジカルな成分の欠乏を気にする必要はなくなるだろう。 食堂及びカフェ周辺からは江南周辺の景色を一望でき、目の保養にもなる。理想の大企業を無理やり現実に実現してしまうパワーに、ただただ畏れを感じる……。 続いて拝見させて頂いた施設は、社内ネットカフェだ。筆者のタイプミスではなく、KRAFTON本社には社内にネットカフェが存在している。 ネットカフェは4つのPCが配置されたテーブルが複数個存在しており、社員は自由に利用することができる。『PUBG』においてはひとつのテーブルでスクアッド(4人チーム)が組めるようになっており、社内大会もしばしば実施されているという。 PC以外にも家庭用ゲーム機で遊べる「コンソールルーム」も存在し、近辺には仮眠室やシャワールームも用意されているそうだ。実際に社員が泊ることはできないが、衣・食・住の全てがある。誰もが「もう家いらないじゃん」と感じる環境と言える。 本社ツアーでは、KRAFTONが受賞したトロフィー類が展示されており、中には韓国政府から優れた労働環境を表彰されたものも見受けられた。 これまでに紹介させて頂いたKRAFTON本社の設備にはスタッフのQOLを多角的にブチ上げるさまざまなサービスが存在していたし、同社は社員の子供たちが通える保育園も2軒運営しているという。 もちろん、ゲーム開発の現場はハードであることが想像されるが、「腹が減っては戦は出来ぬ」といったように、社員が存在し、健康でなければ魅力的なゲームは誕生しない。実際にKRAFTON本社は和気あいあいとしており、今後の展開を見据えた気高い意識が伺えた。 そんなKRAFTONが「次なる一手」として繰り出すのは、ハードコアな原作に巧みな調整を施した『ダークアンドダーカーモバイル』である。 就職し、配属されたりしないとKRAFTON本社には行けないが、同社のゲームは誰でも遊べる。国内のプレイヤーは、ひとまず日本のユーザーも参加できる次回のビルドテストを楽しみに待とう。
電ファミニコゲーマー:りつこ,竹中プレジデント
【関連記事】
- 『同級生リメイク』Nintendo Switch版、PS4版の体験版が配信開始。成人向け恋愛ゲームの金字塔的作品のリメイク版を、全年齢向けに移植
- 『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』サービス終了を発表。PC版は7月1日、iOS/Android版は7月31日をもって終了、アーカイブアプリも期間限定で公開予定
- SNSで話題を呼んだ「手紙を検閲」するゲームを拡張した『Your letter has been rejected.』Steam版が発売決定。手紙の検閲で「送り主」と「受取人」の関係性や国家の行く末も変化、手紙の内容が一新され、ストーリーも追加
- 『機動戦士ガンダム』シリーズの映画5作品をリバイバル上映するイベント「ガンダムシネマフェス」が開催へ。『機動戦士ガンダム』劇場版3部作、『逆襲のシャア』『閃光のハサウェイ』を映画館で鑑賞できるチャンス
- Discord上で遊べるゲームのコンテストが公式に開催、大賞には3万ドルをプレゼント。アイデアとプロトタイプで応募でき、5つの部門の入賞者は1万5000ドルの賞金が貰える