「ダメ。ゼッタイ。」より「徐々に徐々に」 諸外国では当たり前の「ハームリダクション」という考え方
政策アナリストの石川和男が6月15日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。薬物中毒やアルコール依存症、たばこの健康被害に対する「ハームリダクション」という考え方について議論した。
ハームリダクションとは、依存性の高い薬物やアルコール、たばこなど健康被害をもたらす行動習慣をすぐにやめることができないとき、リスクをできる限り少なくすることを目指して実践される公衆衛生上の方法・政策で、英語の「harm」=害、「reduction」=低減から成る言葉だ。 番組にゲスト出演した東京財団政策研究所研究主幹で医師の渋谷健司氏はハームリダクションについて「有害なものを完全にゼロにするのは難しいため、今あるリスクをできる限り減らして、健康被害を減らすという考え方」と説明。 つづけて渋谷氏は「例えば日本の場合、特に薬物中毒は“ダメ。ゼッタイ。”で0か1かの議論になりやすい。ただ、実際のリスクはゼロイチではない。できるだけリスクを減らすことで、被害を最小限に抑えるという極めて合理的かつ現実的な考え方」だとして、公衆衛生上の政策として、諸外国では確立された考え方だと述べた。 具体例として「オピオイド系の麻薬中毒患者は、依存性や禁断症状が強く、中毒からの離脱が非常に困難。そのため海外では、メサドンというリスクの低い薬物を使って、少しずつ麻薬から離脱させる方法がある。“ダメ。ゼッタイ。”という考えが強い日本では、このようなアプローチは採用されていないが、将来的には麻薬中毒の治療におけるスタンダードな方法になる」と指摘。欧州などでは、注射器の回し打ちでエイズが広がった麻薬中毒患者に、まず新品の注射針の無償貸与を行い、エイズの拡大防止から始める手法が取られたとの実例も紹介された。 また、身近な喫煙に関する分野においても、ハームリダクションの考えは有効で「たばこの害は、まずニコチンが起こす依存性。ニコチンががんや循環器疾患といった死に至る病を直接引き起こすというよりも、たばこの葉を燃やしたときの煙に含まれる有害物質が健康被害を起こす。葉を燃やした煙が健康に悪いとわかっていても、ニコチンに依存してしまい、吸い続けてしまうのがたばこの害」と指摘。「紙巻きたばこに比べて、加熱式たばこは、たばこの葉を燃やさずに加熱することで発生する蒸気を吸引するため、紙巻きたばこに比べて有害な煙を吸うリスクは格段に減る。さらに、日本では未認可のたばこの葉を使わずニコチンだけを吸える電子タバコを、諸外国ではハームリダクションの中心に使っている」と言及。 そのうえで、電子たばこが日本で認められない背景について「たばこの葉を使用した紙巻きたばこや加熱式たばこは、たばこ事業法で財務省が管轄。一方で、たばこ葉を使用せず薬機法で定められた化学物質であるニコチンを使った電子たばこは、厚生労働省の管轄。諸外国で、加熱式たばこが販売されていて、電子たばこが規制されている国はほとんどない」と指摘。 健康被害がより少ない電子たばこの普及に向けては「財務省、厚労省の枠があるため、政府としてたばこのハームリダクションの法制化を進めていく必要がある」と訴えた。 石川は「なんでもゼロイチはしんどい。ハームリダクションの“徐々に改善していく“という考え方が、今後日本の政策に入っていくことによって、社会変革が前向きに進むのではないか」と締めくくった。