俳優・木村拓哉に必要なのは「人気シリーズ作品」 かつて主役を務めてきた名優たちの共通点なのだ
【芸能界クロスロード】 4月期ドラマで注目されていた長谷川博己の「アンチヒーロー」と、木村拓哉の「Believe」。決着が見えてきた。長谷川は2桁を維持しているが、木村は2桁を割り9%台。今どきのドラマの数字としては合格点だが、テレ朝期待の大型ドラマである。蓮舫氏のかつての名ゼリフではないが「2位じゃダメなんですか」というわけにはいかない。 【写真】浜崎あゆみの足の形は日本人の中では少数派だった! 過去には池田エライザも話題に テレビ関係者は「最低でも4月期1位を狙っていたが、TBSの日曜午後9時枠に負けたショックは大きいと思います」という。 木村の俳優としての下地を構築してくれた旧ジャニーズも、1位にこだわる事務所だった。新曲発売や主演映画の公開のたびに、「初登場で1位」の大きな文字がスポーツ紙の紙面を飾っていた。2位では紙面に載らない。ダメだったのだ。 今回のドラマが1位を獲得できなかった原因は、さまざまな指摘がなされるだろうが、とくに感じるのはビジュアル・セリフだけを切り取ってみても、若い頃に戻ったように「カッコいいキムタク」を前面に押し出しているように見える点。 主演クラスの脇役も「木村のために協力」しているように見えてしまう。脇に回っても主役オーラは消せないもの。木村の妻役がピンとこない天海祐希も木村と絡まないシーンでは「緊急取調室」の真壁有希子そのものだ。 刑事役の竹内涼真も木村を食うようなシーンもあり、見ているうちに誰が主役かわからなくなる。見方によってはそれがこのドラマの面白さなのか。 対照的に「アンチ~」の長谷川は“ザ・主役”の存在感がたっぷりの演技。4年前の大河「麒麟がくる」の明智光秀役に続き長谷川の代表作になった。 ドラマの作りも最終回に向け関心を高める手法はいかにも日曜劇場らしい。脇も役にふさわしい面々が名を連ねる。ラスボス役の野村萬斎の名演技。9年ぶりのドラマ出演の吹石一恵、冤罪の死刑囚の娘役を演じる近藤華の演技も光る。TBSの1月期ドラマ「不適切にもほどがある!」で注目を浴びた河合優実のような存在になりそうだ。 長谷川ドラマにお株を奪われた木村のドラマ。先日、木村主演の映画「グランメゾン・パリ」の今冬公開が発表された。「アンチ~」と同じ枠で人気になったドラマの映画化だが、パリロケを敢行したぜいたくな作品だ。ここでもカッコいい木村シェフの姿が目に浮かぶ。 ドラマ、映画と続けて主演を張りコロナ明けから動きを活発化させた木村。一昨年50代に入り俳優としての方向性が注目されていたが、主役にこだわりカッコよさを追求する姿勢が見えてきた。 かつて主役を務めてきた名優たちには木村にない共通点がある。シリーズ化された作品があることだ。高倉健は任侠シリーズや「網走番外地」があった。勝新太郎といえば「座頭市」シリーズ。三船敏郎は黒沢明監督映画に欠かせない主役だった。ドラマでも田村正和には「眠狂四郎」「古畑任三郎」があった。福山雅治も「ガリレオ」シリーズがあった。令和に入っても根強い人気を誇る「相棒」シリーズの水谷豊。 視聴率男の異名をとった木村ドラマではシリーズ化された作品はほとんどない。アイドル俳優から脱皮するきっかけになりそうだった「教場」もシリーズ化になりかけたが、頓挫したまま。 今期のドラマで木村自身も、起用するテレビ局も多くの課題を残した。 (二田一比古/ジャーナリスト)