「男が女に負けるのは情けない」 柔道・溝口紀子が感じたジェンダーギャップ(小林信也)
国王観戦で異様な雰囲気に
ソウル五輪の4年後、92年バルセロナ五輪から女子柔道は正式種目になった。代表争いは厳しい闘いだった。成長著しい同期の植田睦(筑波大)との決勝は、旗判定にもつれ込む激戦。だが、終始攻め続けた「まむしの溝口」に旗が上がった。 金メダル間違いなしと自他ともに認めて臨んだ本番は、決勝で伏兵アルムデナ・ムニョスに敗れ、銀メダルにとどまった。ムニョスは地元スペイン期待の星。試合前、会場にファン・カルロス国王夫妻が入ると異様な雰囲気に包まれた。攻めるふりはするが決して前に出て来ない、組ませてくれないムニョスに主審はなかなか指導を与えない。しびれを切らして得意の内股に行った溝口が逆に効果を取られ、そのまま試合を終えた。96年のアトランタ五輪でもケガで雪辱を果たせなかった。 〈金〉を取れなかった悔しさが、引退後フランス代表コーチを務め、現在は大学教授の傍ら、袋井市スポーツ協会会長を務めるなどスポーツ改革の先陣を担う原動力かもしれない。 小林信也(こばやしのぶや) スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。 「週刊新潮」2024年3月21日号 掲載
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